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「PLAN 75」 2022

PLAN75

★★★★☆

 

あらすじ

 高齢化対策の一環として75歳以上の人間は安楽死できる制度が導入された社会の片隅でひっそりと生きる老女。

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感想

 75歳以上になると安楽死を選べる制度、プラン75が導入された社会が舞台だ。そういう選択肢があるだけでは単純に判断できないが、この映画では完全にディストピアな社会となっている。安楽死を「選べる」のではなく、「選ばされる」社会だ。老人たちは自然とそこに追いやられていくようになっている。そもそもこの制度導入のいちばんの目的は老人に選択肢を与えるためではなかった。少子高齢化社会対策だ。

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 老人ホームを訪問する際にはテロ対策で身体検査があったり、市役所の職員がどのパーツが公園のベンチをより使いづらくできるかチェックしたりと、映画のあちこちに社会の闇が感じられる描写が散りばめられている。だからプラン75の制度も導入されたのだろうと想像ができ、リアリティが感じられて見事だった。そしてもはや誰もそれに疑念を持つことすらなく、それを無自覚に受け入れている様子は恐ろしい。

 

 そんな社会で生きる主人公は、身寄りもなく一人で生きる老女だ。年寄りに働かせるなんて可哀想、というクレームで仕事はクビになり、団地の老朽化により転居を余儀なくされるも収入がないからと新しい部屋は借りられず、仲の良かった同年代の友人は死んでしまって、孤独の中でどんどんと追い詰められていく。そして考えてもいなかったプラン75に申し込むことを「選ばされ」てしまった。

 

 

 見ているだけで辛くなるが、個人的には生活保護を当たり前のように受けて欲しかった。だが、それは恥ずかしいことだと本人に思い込ませているものもまた、この社会の闇のひとつだろう。

 

 元々老人とは寂しいものだ。社会と関わりを持つことは少なくなっていくし、友人たちもこの世を去っていく。子どもや孫がいたって彼らは自分たちの人生に忙しく、いつも相手をしてくれるとは限らない。大勢の家族や友人に看取られて大往生できる幸せな人なんてほぼいない、と言ってもいいだろう。

 

 そんな現実に対処するために、年を取っても寂しくないように生きていける体制を整えようとするのか、それとも、それでは生きていても仕方がないだろうと死ぬ方法を用意してやろうとするのか、どちらを選ぶかでその社会の本質が分かる。どちらの社会で生きたいかという話でもある。日本ではそのようなことを公言する政治家もいることだし、どうやら後者を選びそうだが。

75歳以上安楽死容認、映画「PLAN 75」に込めた狙い 社会に蔓延する自己責任論への憤りがきっかけ | 映画・音楽 | 東洋経済オンライン

 

 当事者の主人公だけでなく、身近なものが当事者となった若者、そんな制度を作った社会とは別のところからやって来た外国人など、違った立場の人たちの目を通してこのディストピアが描かれていく。様々な視点が与えられて色々と考えさせられるが、なによりも痛感するのは想像力の重要性だ。皆、当事者と関わることでようやく自覚的に考えるようになる。

 

 ラストも、やっぱりこんなの間違っていると思うのか、なんの好転もしてないどころかむしろ悪化しているのだから、余計なことをしてしまっただけと思うのか、どう考えるのかはその人の想像力にかかってきそうだ。

 

 倍賞千恵子の好演が光る素晴らしいディストピア映画だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 早川千絵

 

出演 倍賞千恵子/磯村勇斗/たかお鷹/河合優実/ステファニー・アリアン/大方斐紗子/串田和美

 

PLAN75

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PLAN 75 - Wikipedia

 

 

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