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「終の信託」 2012

終の信託

★★★☆☆

 

あらすじ

 重度のぜんそく患者に最期は苦しまないようにして欲しいと頼まれていた女医は、望まれていた処置を行うことを決断する。144分。

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感想

 序盤は、検察に呼び出された主人公の女医が待合室で過去を回想する様子が描かれる。病院での主人公と患者の深刻そうなやり取りから始まり、物語が重苦しい雰囲気で進行することが予期させられる。

 

 だがその後、深夜の病室で男女が密かに抱き合うピンク映画みたいな流れになったのは意外性があった。唐突な印象ではあったが、「死」を描く映画なので、対照的な「生」を見せることでそれを際立たせようとしたのだろう。

 

 

 前半は主人公と役所広司演じる患者の関係性が描かれる。主人公が患者に踏み込み過ぎな気がしたが、慢性的な病気で主治医と患者としての付き合いが長年続けばそうなってしまうものなのかもしれない。精神が不安定になった主人公を患者が気遣う様子を見せて、両者が一方的でなく対等な関係にあることを示す演出は上手かった。診断される患者だって医者をじっと観察している。

 

 ところで、患者が満州の話をするので一体この人は何歳なのだろうと気になってしまった。平成13年(2001年)の話で満州には5歳くらいまでいたようなので、この時60代前半といったところだろうか。今から20年くらい前まではまだ戦争体験者が世の中に普通にいたのだなと感慨深くなる。

 

 そして主人公が患者を安楽死させた、問題となるシーンが始まる。このシーンはなかなかショッキングだった。静かに眠るように死ぬものだと思っていたのに、苦しみ出して暴れはじめてしまった。これは無意識の本能的なものなのだろうが、看取る家族が驚き戸惑うのも当然だ。主人公も途中で止めるわけにはいかない。困って無理をしてしまうのもよく分かる。

 

 後半は、この安楽死をめぐって主人公が検事に激しく問い詰められる。緊張感漂う重厚な密室の会話劇だ。検事を演じる大沢たかおが、硬軟おりまぜ、時にタメ口になって挑発するいい感じにムカつく男を好演している。

 

 ここでは当然主人公に肩入れしたくなるが、二人のやり取りを聞いていると、これを認めてしまうわけにはいかないなという気分にはなってくる。この件は主人公と患者に信頼関係があることが分かるからいいが、これを良しとしてしまうと、信頼関係があるかどうかを客観的に示すことは難しいので医者が独断で患者を死なせまくることも起きかねない。システマチックに処理する一般化した仕組みを作るのは難しい。個別に判断していかなければならないのだとしたら効率的ではない。

 

 それにそんな不確実なリスクがあるなら医者は無難な延命治療しか選択しないだろう。情に流されると余計なことをしてしまうからと、患者と信頼関係を築かなくなる。

 

 本当は患者が家族を交えてこのことについてしっかりと話し合っていれば一番良かったのだろうが、家族に自分の病気でこれ以上余計な負担をかけたくなかった彼の気持ちも分からないではない。なんにでも家族を付き合わせて迷惑をかけるのは悪いからと、同じ趣味の飲み友達や釣り仲間と出かけるようなもので、病気については家族よりも分かり合えてる医者に託したということなのだろう。

 

 安楽死・尊厳死について色々と考えさせられる見ごたえのある映画だ。これらを自分で選べる制度があってもいいような気もするが、世の中には老人や病人などの社会的弱者に圧力をかけ、半ば強制的に安楽死するよう仕向けたい人たちがたくさんいるらしいことが分かって来たので、安易に認めてしまうと危険な空気はある。

 

 ラストでは、いかにも空気が悪そうで、ぜんそく持ちには絶対に良くなさそうな、遠くに工場街が見える患者が住んでいた場所が映し出され、こんな所で暮らさなければいけない社会環境に対する批判も感じるエンディングとなっている。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 周防正行

 

原作 終の信託 (光文社文庫 さ 22-5)

 

出演 草刈民代

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細田よしひこ


音楽 周防義和

 

終の信託

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終の信託 - Wikipedia

 

 

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