★★★☆☆
あらすじ
妻に別れを切り出された男は、独身者が集められるホテルに連行される。
コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ベン・ウィショーら出演、ヨルゴス・ランティモス監督。118分。
感想
妻と別れ、何かの施設に連行された男が主人公だ。最初はよくわからないのだが、やがて、ぼんやりとながら少しずつ状況が見えてくる。どうやら独身者は一定期間内にパートナーを見つけなければいけないらしく、それが出来なければ、動物に変えられてしまうようだ。
さらに、定められた期間を延長できる野生の独身者を狩るイベントが用意されている。当初は集まった独身者同士で殺し合いをするのかと思っていたが違った。ただ、やっていることはデスゲーム的なものなので、殺伐としていてもおかしくないのだが、上品な音楽が使われ、トボけたユーモアを感じさせる独特の雰囲気の中で進行する。
とにかく奇妙な物語で、あまりピンと来ないところがあるのだが、これはパートナーがいない者への風当たりが強い欧米社会を風刺しているのだろう。ソロ活だ、おひとり様だと一人で行動できる範囲が拡大しつつある日本にいると実感しにくいが、欧米だとどこへ行くにもパートナー同伴が常識だ。そうでない者は人間以下の扱いで、社会から疎外される。
そのため独身者は、当然パートナーを探してはいるが今はまた見つかっていないだけ、というポーズをとらなければならない。異性と出会えば共通点を探し、自身の魅力をアピールする。しかし、その期間も長引けば、パートナーも見つけられない価値のない人間だとみなされてしまう。それを誤魔化すために、パートナーがいないにもかかわらず平然としている他の独身者を叩くこともある。このホテルで行われているのは、これらのメタファーだ。
独身者はダブルスを組むテニスには参加できないとか、伴侶がいないことを異常に気の毒がられるとか、肩身の狭い思いをしている欧米の独身者なら激しく肯いてしまうような描写があちこちにあるのだろう。それらにすべて気付けるわけではないが、まだ寛容とはいえ、日本でも似たようなことはあるので、理解できる場面は多い。
独身者同士で肩寄せ合っていたのに、いざパートナーが出来るとマウントを取ってしまうなどの、恋愛あるあるもある。
そして、単に独身者の忸怩たる思いが表現されているだけでなく、彼らの内に秘めた心の闇も描かれている。友人カップルが連れてきた子供の相手をするシーンで、主人公が見せる酷い言動には思わず笑ってしまった。彼の気持ちが分かる独身者はたくさんいそうだ。
後半は、そんなホテルから逃亡し、野生の独身者グループに合流した主人公の様子が描かれていく。恋愛禁止にもかかわらず、彼はある女性と恋に落ちる。二人にしか分からない秘密の合図をたくさん作っていたら、いつの間にか言葉なんていらなくなった、というエピソードは興味深い。もはやそれは動物になったも同然で、まさにホテルでパートナーが見つからなかった場合にされる処置と同じになっている。
つまり、ほとんどのカップルは、世間が作り上げたパートナーとはこうあるべきというマニュアルをこなしただけで、実は本当の恋愛はしていない、ということなのかもしれない。だが、それこそが野生の動物とは違う合理的な人間らしさで、本能のままの恋愛など低く見ているということなのだろう。
恋人と気持ちが通じ合った主人公が最後に取ろうとする行動も、カップルは似ていなければならないという社会の思い込みに縛られたものだった。自分の素直な感情よりも、メリット・デメリットを計算し、正しい選択による型にはまった恋愛を志向する社会への批判も感じられる。
とにかく奇妙で独特な世界観で、強く印象に残る映画だ。いったい何がどうなっているのだ?と引き込まれるが、後半にかなり失速してしまった。急に時間の流れが遅くなる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 ヨルゴス・ランティモス
脚本 エフティミス・フィリップ
出演
レイチェル・ワイズ/ジョン・C・ライリー/ベン・ウィショー/ジェシカ・バーデン/オリヴィア・コールマン/レア・セドゥ

