★★★★☆
あらすじ
ゲイの音楽家は、認知症に罹ったパートナーの作家を連れ、キャンピングカーで思い出の地をめぐりながらコンサート会場に向かう。
コリン・ファース、スタンリー・トゥッチら出演。イギリス映画。95分。
感想
音楽家と作家の中年のゲイ・カップルが、キャンピングカーで旅をする物語だ。作家の男は認知症を患っているが、二人は軽口を叩きあいながら楽し気に過ごしている。仲の良い二人の関係性が見える。
しかし、ふとした瞬間に音楽家の主人公は不安や悲しみの表情を見せる。今はいつも通りでも、やがてパートナーは変わり果て、自分のことすら認識しなくなる日が必ずやってくる。未来が分かるということは、時にとてつもなく残酷だ。その日が来るまで脅え続けなければならない。
主人公らは思い出の地をめぐり、家族や友人たちを訪ねる。大きなキャンピングカーで細い道を走る様子は、対向車が来たらどうするのだ?と現実的な心配をしてしまうが、自然の雄大さに大らかな気分になる。デカいキャンピングカーも大自然の中ではちっぽけなものだ。
ある時に主人公は、パートナーの症状が思っているよりも進行しており、そして彼がある決意をしていることを知ってしまう。その詳細はしばらく観客に知らされず、まずは主人公の表情や仕草から想像させるようになっている。そしてその後、劇的なタイミングで明らかにする演出は見事だった。
彼の決意は大体予想がつくが、はっきりとさせたくないような、曖昧にしておきたい気持ちはあった。これは主人公が、いつかパートナーの病状が決定的に悪化する日が来ることを覚悟していながら、「それは今日ではない」と思っているのと似ているかもしれない。心のどこかでいつまでも猶予があると期待している。
主人公は、互いの思い描く未来が食い違っていたことに憤慨する。だがこれは先に行く者ととそれを見送る者、それぞれが相手を必死に思うが故の衝突だ。二人が激しくぶつかればぶつかるほど、やるせない思いに駆られる。
そして主人公は、相手を自分勝手だと怒ったが、両者の言葉を聞いていると、何が自分勝手な考え方なのかよく分からなくなってくる。
最終的に主人公はパートナーの決断を受け入れる。スーパーノヴァ(超新星)のように人生を終えたいと望む彼の決断を尊重するべきなのだろう。宇宙や大自然のスケールの中で考えれば、人生の長短なんて無いに等しい。やがて彼も宇宙を彷徨い、また別の何かになる。主人公は彼の存在を常に感じながら生きていけるはずだ。
終盤は何度も心揺さぶられ、目頭が熱くなる映画だ。中年男性二人が裸で抱き合って眠る冒頭のシーンには困惑したが、終わってみれば全然違う印象で思い返される。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ハリー・マックイーン
出演 コリン・ファース/スタンリー・トゥッチ/ジェームズ・ドレイファス/ピッパ・ヘイウッド
スーパーノヴァ (2020年の映画) - Wikipedia

