★★★☆☆
あらすじ
団地に住む平凡な夫婦の間に生まれた赤ちゃんが2歳になるまでの日々。キネマ旬報ベスト・ワン作品。
感想
生まれたばかりの赤ん坊の独白で物語が始まる。そのままこの赤ちゃんの目線で描かれていくのかと思ったがそういうわけでもなく、以降は時おりそれが挿入される程度だった。もうちょっと徹底するなり、父母と同等の扱いにするなり、映画のスタイルに統一感が欲しかった。どこか中途半端だ。
赤ちゃんとその両親、そして祖母が主な登場人物となっている。その他の人間はあまり出てこない。だがたまに登場する他人が皆、赤ちゃんに対して何の躊躇もなく自然と近づいてくるのが印象的だった。それどころか、老若男女問わず誰もが一家言ありそうな雰囲気を醸し出している。
今ならきっと他人は遠巻きにするだけで、近づくことさえ躊躇ってしまうのではないだろうか。当たり前のようにそこかしこに赤ちゃんがいた時代との違いを痛感してしまう。きっとこの時代は、誰もが赤ちゃんと何らかの関わりがあって、彼らと接するのは特別なことでも何でもなく、日常的なものだったのだろう。
しかし8人も赤ちゃんを産んだ母親の姉が、「子供たちがぎゃあぎゃあ騒いでうるさかった時は2,3人殺してやろうかと思ったけどねぇ…。」と普通のトーンで言っていたのには爆笑してしまった。たくましいのだか怖いのだか、もう訳が分からないが凄みがあった。
中盤以降は女たちが、どこかボンヤリとしてピンと来ていない様子の父親に、赤ちゃんを育てるとはどういうことなのかを教え諭すような展開になっていく。それがきっかけとなり、不仲だったはずの嫁と姑がいつの間にか結託し、仲良くなってしまっていたのは可笑しかった。赤ちゃんが周囲の関係性を変えることもある。だが確かに、赤ちゃんが死にかけているのに呑気なことを言っていた父親はヤバかった。
子育てに奮闘する夫婦の姿が微笑ましく、それを見守っているうちに子供を持つことや命をつないでいくことの意味に思いを馳せるようになる映画だった。皆が当事者意識を持っていたこの時代の人々には色々と訴えるものがあったはずだ。もちろん現代でも、子育てを経験したり関心を持っている人なら同様だろう。
スタッフ/キャスト
監督/製作 市川崑
脚本 和田夏十
出演 船越英二/山本富士子/浦辺粂子/(声)中村メイコ/岸田今日子/浜村純
音楽 芥川也寸志