★★★☆☆
内容
中国で1966年から10年続いた「文化大革命」について解説する。
感想
文化大革命とその前後に起きた出来事が説明され、それがもたらしたものについてまとめられている。また、毛沢東や鄧小平、周恩来らの当時の主要人物が何をしたかについての詳述もある。一部に時系列通りではなく前後させていた個所があったのは謎だったが、教科書的な知識を得るには十分な内容だ。
ただ、あまりにも教科書的過ぎて、結局「文化大革命」とは何だったのか?というそもそもの疑問が腑に落ちずに残っている。「こういう建前でやりました」だけでなく、「その裏には、毛沢東が政敵を排し、自身の権力者としての地位を固める意図があったんです」と言うような、もっとぶっちゃけた話を聞きたかった。
紅衛兵について少しだけ触れている個所はあったが、大衆が文化人や学者をどのように迫害したかについても、もっと詳細を知りたかった。ただ、学生たちがこの運動にノリノリだった理由はよく分かるような気がする。
ただでさえ自意識が強く、権力や大人に逆らったり、暴れたりしたくてウズウズしている年頃なのに、政府がそそのかして後押ししてしまったら、そりゃやりたい放題やるのは当然だ。政府を擁護するような言い訳さえ用意しておけばよく、そんなものはいくらでもひねり出せる。そうやって略奪や殺しにまでエスカレートしていったのだろう。政府の姿勢がどれほど大衆に影響を与えるのかがよく分かる。
かつて魯迅は「暴君のもとでの臣民」と題したエッセイを書いて、暴君の臣民は「残忍さをもって娯楽となす。他人の苦悩を賞翫し、[自らの]慰安とする」と書いたことがある。
p132
しかし、文化革命中の文化芸術の破壊や学問の軽視、統計が取られなかったり情報が隠蔽される様子を読んでいると、なんだか現在のどこやらの国とよく似ているような気がしてしまう。「差別の禁止には反対」などと、ヘイトや偏見を助長するような危険なメッセージを大衆に発しているところも共通点かもしれない。
この本が出版されたのは1989年。当時の時代状況を考慮しながら読むと、また別の意味で興味深い。中でも、天安門事件直後なのに中国の民主化について著者が楽観的に見ていたのは意外だった。また、文化大革命中の中国の経済発展を他のアジア諸国と比較するパートでは、別格だから比べるのは気の毒だとでも言わんばかりに日本を対象から外していたのも、今の状況から考えると隔世の感がある。
結局、維持にコストがかかり過ぎる体制はしんどい。そんな当たり前の感想しか出てこなかったが、それでも中国がその後にちゃんと振り返って総括しているのは偉い。計画を実行した後に分析や評価をするのは当たり前の話なのだが、なぜかそれをやらない国もある。
著者
矢吹晋
登場する作品
「毛沢東思想与中国文化伝統」 汪澍白
「中国現代史詞典」 李盛兵主編
「王希哲論文集」 王希哲
「探索」 魏京生
「江青同志」 ロクサヌ・ウィトケ
「江青秘伝」 珠珊
「林彪事件真相」 干弓
現代中国の歴史 1949~1985―毛沢東時代から〓@68B0小平時代へ (有斐閣選書)
「"文化大革命"論析」 金春明
「中国文革十年史」 厳家其/ 高皋
毛沢東選集〈第1巻〉第一次国内革命戦争の時期,第二次国内革命戦争の時期 (1955年)
「周恩来選集(下巻)」
「中共文化大革命重要文献彙編」
「四五運動紀実」 厳家其
この作品が登場する人物
毛沢東/彭徳懐/周恩来/鄧小平/江青/葉群/林彪/羅瑞卿/
楊成武/劉少奇