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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「さようなら、私の本よ!」 2005

さようなら、私の本よ!

★★★★☆

 

あらすじ

 別荘で怪我の静養をする老作家は、絶縁状態から再び交流を持つようになり、隣に住み始めた幼なじみが企てる活動に巻き込まれていく。「おかしな二人組」三部作の三作目。

 

感想

 三部作の三作目とは知らずに読み始めてしまい、最初は登場人物らの関係がなかなか把握できずに戸惑ってしまった。だが一度把握してしまえば、その後は支障なく読み進められる。

 

 けがで入院し、退院後、静養のために軽井沢の別荘で暮らし始めた老作家が主人公だ。親交が復活し隣家で暮らすようになった幼なじみの友人が、出入りする若者らと不審な動きを見せており、主人公はそれに巻き込まれていく。ただし、騙されたとか利用されたとかではなく、面白がってそれに乗ろうとしている。それと共に、失われていた主人公の創作意欲は、回復の兆しを見せ始める。

 

 

 しかしほとんどの友人・知人を亡くし、自身も先が長くないことを自覚している主人公は、生きているうちに自身の仕事によって理想や希望が実現するのを見ることはないだろうと悟るようになっている。もはや本という形式にこだわって世界を変えようとは考えてはおらず、どんな形であれ、一歩でもそれに近づくことができればそれでいいと考えているように思えた。

 

 そのために、主人公は自身の考えを、また自分が受け取って来た友人たちの言葉を誰かに伝えようとしている。友人に従う若者たちと語り合うのもそうだし、終盤で彼が行っていた「徴候」を書き留め続ける作業もその一環だろう。これまでのように本ではなく、今現在の主人公の最新の言葉で語ろうとしている。もはや悠長に本にまとめている時間などない、と考えているかのようだ。

 

 もう数年もすれば自分はこの世からいなくなるだろうと考えながら生きるなんて、物悲しいような気がしてしまうが、そんな歳になれば普通にそれを受け入れられるものなのだろうか。

 

 それに自分がいなくなった後の世界なんてどうでもいい、となりそうなものだが、それでも世界のために出来ることはやっておこうと黙々と書き続ける主人公は強い。なんでも仕方がないと言い訳し、冷笑することで何とか自分を保とうとしている人間なんかより全然若い。

 

 

著者

大江健三郎

 

さようなら、私の本よ! - Wikipedia

 

 

登場する作品

ロリータ (新潮文庫)

「The Gift(賜物〈上〉 (福武文庫))」

岩波文庫 ハックルベリィ フィンの冒険 上下2冊

「ニルス・ホーゲルソンの不思議な旅(ニルスのふしぎな旅〈1〉[全訳版] (偕成社文庫))」

「ゲロンチョン」 T・S・エリオット

エリオット (1954年) (鑑賞世界名詩選)

ロード・ジム

四つの四重奏曲

「Dandelion」*

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「耳で聞く想像力(オーデイトリ・イマジネーシヨン)」「Art of T. S. Eliot」所収

「バーント・ノートン」 T・S・エリオット

エリオット詩集 (海外詩シリーズ)

「アルフレッド・ブルーフロックの恋歌」 T・S・エリオット

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「ノミの幽霊(蚤の幽霊)」 「新しい人よ眼ざめよ (講談社文芸文庫)」所収

豊饒の海  全4揃

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個人的な体験(新潮文庫)(A Personal Matter)」

「The Funeral」*

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夜の果てへの旅(上)-新装版 (中公文庫 セ 1-3)Voyage Au Bout de Nuit (Folio Plus Classique))」

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罪と罰 1 (光文社古典新訳文庫)

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「Seventeen(セヴンティーン)」

*所収

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「ある指導者の幼年時代(一指導者の幼年時代)」 「水いらず (新潮文庫)」所収

未成年1 (光文社古典新訳文庫)

Les Bêtes" et "Le Temps des mortsけものたち・死者の時 (岩波文庫))」

ソラリス (ハヤカワ文庫SF)

Romans 1 (Leatherbound edition)

Cahiers Celine 12: Lettres a Pierre Monnier 1948-1952

セリーヌの作品〈第1巻〉夜の果てへの旅

セリーヌの作品〈第7巻〉城から城

「イースト・コウカー(イースト・コーカー)」 T・S・エリオット

「死と王の先導者(Death and the King's Horseman)」

「リトル・ギディング」 T・S・エリオット

神曲 地獄篇 (河出文庫)

荒涼館(1) (ちくま文庫)

静かな生活<Blu-ray>(A Quiet Life)」

西遊記 1 (岩波文庫)

白痴1 (光文社古典新訳文庫)

 

 

関連する作品

前作 「おかしな二人組」三部作 第二作

 

 

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