★★★★☆
内容
小説の読み方を紹介し、その後、様々なタイプの小説に対して具体的に実践しながら論じていく。
感想
著者による小説の読み方が紹介されていく。序盤に挙げられていた小説を読むときの4つの視点「①メカニズム ②発達 ③機能 ④進化」は有用そうだった。小説を読み終わった後、いざ感想を書こうとしてビックリするくらい何も感想が思い浮かばない時がたまにある。そんな場合の、何かをひねり出すトリガーになってくれそうだ。これは元々高名な動物行動学者が研究時のアプローチ法として唱えたものだそうで、小説に限らず、日常生活の諸問題などあらゆる場面で応用できそうだ。
面白い小説はどんな仕組みになっているのか、ページをめくる手が止まらないような推進力はどのように生まれているのかなど、小説の仕組みについての細やかな解説があって興味深い。さすがプロだと感心してしまう。読むだけでなく、小説を書きたいと思っている人にも役に立ちそうだ。
実際の小説を題材にし、紹介した手法を用いて読み解いていく実践編の中で印象に残ったのは、高橋源一郎の「日本文学盛衰史」の回だ。この著者の本はこれまで何冊か読んだことはあるが、掴みどころがなく、いまいち良く分からないというモヤモヤがいつもあった。だがこの解説を読んだら、そういうことかと腑に落ちるものが多々あって、かなり理解が深まった。端的に言えば、自分の読みが浅かったのだなと反省した。もしかしたら自分は、映画を倍速で見るような感じで小説を読んでしまっているのかもしれない。
その他では、ケータイ小説と呼ばれる「恋空」を取り上げているのが意外だった。だが、売れているものには何かしらの理由があるわけだから、偏見を持ったり無視したりせず、その理由を探ってみることも世の中を理解するうえで大切なことかもしれない。4つの視点で言うところの「機能」や「進化」に注目する読み方だ。こういう視点を持つことで新たな読書の楽しみが生まれたりするのだから面白い。
著者
平野啓一郎
登場する作品
さえずり言語起源論 新版 小鳥の歌からヒトの言葉へ (岩波科学ライブラリー)
「若さなき若さ」 ミルチャ・エリアーデ
「黒つぐみ」 「三人の女・黒つぐみ (岩波文庫)」所収
コッポラの胡蝶の夢 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]