★★★☆☆
あらすじ
貧しい町でいじめられて育った少年。アカデミー賞作品賞。
感想
黒人でゲイという二つのマイノリティーを背景に育った青年。 家は貧しく母親はクスリ漬けという酷い環境の上に、さらに自身のセクシャリティによって周囲からもいじめられる。ハードモードの人生だ。そんな男の少年、青年、大人の3つの時期が描かれている。
酷い環境の少年時代。それでも彼に手を差し伸べてくれる人はいた。ただそれがドラッグディーラーというのがつらいところ。しかしディーラーとしてそれなりに成功している人はその界隈では頭が良い部類に入るはずで、彼に様々な人生訓を教えてくれる。この男を演じるマハーシャラ・アリがとても雰囲気のある演技で良かった。アカデミー助演男優賞を取ったのも納得だ。
そして高校時代。ある一人の男を中心に執拗に付き纏われいじめられるのだが、このいじめる男の執念が正直理解しがたい。やりたいこともなく暇を持て余しているからなのだろうが、その粘着ぶりが腹立たしかった。とはいえ、そういう人は現実世界で割と見かけるが。
最後は、大人になった主人公が描かれる。ヒョロヒョロの体格だった青年時代からの変わりように驚くが、彼なりの生きる術だったのだろう。ただ模索の結果として行き着いたのがそこだったのかと思うと物悲しくもある。そしてそれなりの成功を手に入れたにもかかわらず、彼に付きまとう一抹の寂しさ。
ゲイである主人公が思いを寄せるのは幼馴染の男。男女でも関係を深める時には相手の様子を慎重に窺うが、彼の場合はそれ以上に相手の挙動を注意深く観察しているのが印象的だった。相手が全く予想だにしていない事の方が多いだろうから大変そうだ。
幼馴染との再会は、夜のダイナーでジュークボックス、温かな光とどこかウォン・カーウァイの映画を思い起こさせるような情感たっぷりのシーン。二人の中に確実にある思い出を意識的に避けながら、だけどそれになんとか触れられないかと相手を探っている。
ずるずると切り出せないまま幼馴染の家まで行って迎えるラスト。無理して頑張って生きてきたのだなと、その苦しさを思うと胸が熱くなる。だけどそのエンディングに、どこかでちょっと話が上手くいきすぎでは?と思う自分がいた。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 バリー・ジェンキンス
製作総指揮
出演 トレヴァンテ・ローズ/アンドレ・ホランド/ジャネール・モネイ/アシュトン・サンダース/ジャレル・ジェローム/ナオミ・ハリス/マハーシャラ・アリ