★★★☆☆
あらすじ
無宿人として生きる三人の若者。96分。
感想
冒頭の渡世人たちが寅さんでもおなじみの仁義を切るシーンが面白い。一宿一飯の恩義と言うように、毎日知らない人の所へ行って決して怪しいものではないですよと、自分の素性を知らせる自己紹介を何度も繰り返していくうちに、形式化していったのだろう。儀式のようなものだが、ちゃんと必要な情報はやり取りが出来ている。便利と言えば便利だ。
定住せず股旅を続ける無宿人。不安定な先行きのない生活で、何を目的に生きているのかと思ってしまうが、チャンスを掴んでどこかの親分にいい身分で取り立てられることを目指しているということなのだろう。さすがに年を取ってまで続けられそうもないが、実際はどうだったのだろうか。時々ナレーションが入って、教育番組のように彼らの生態が解説される。
彼らの暮らしは厳しくもあるが、逆にメリットとして、しがらみにとらわれない自由さがあるのかと思いきや、そうでもなさそうだ。毎日いろんなところで一宿一飯の恩義にあずかって暮らしているので、各所に義理が出来てしまって、義理でがんじがらめになってしまっている。恩義のために、実の父親を殺す羽目になったりもする。
ただ、そこで生真面目に義理を果たしていく男は、渡世人としては立派なのかもしれないが、将来はないのかもしれない。嘘も方便で、萩原健一演じる男のように義理人情はほどほどに、打算的に動ける人間だけが生き残っていくのだろう。多くのものが呆気ないほど簡単に野垂れ死んでいく。
自分の義理人情ではなく、相手の義理人情を利用するようでないといけない。小倉一郎演じる無宿人をいいように利用する親分を演じる二見忠男の悪い顔が面白かった。いい顔芸だ。
それから、組の出入りや喧嘩の時の殺陣が、剣豪同士のスマートな戦いではなく、いかにも剣術の素養がない者同士の荒々しい戦いといった趣で、妙にリアルだった。彼らの多くは貧しい農民だったりするので、きっとこんな感じだったはずだ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 市川崑
脚本 谷川俊太郎
出演 萩原健一/小倉一郎/尾藤イサオ/井上れい子/常田富士夫/加藤嘉/二見忠男
音楽 久里子亭/浅見幸雄