★★★☆☆
内容
小津安二郎にゆかりのある深川、松坂、尾道、鎌倉などを歩き、小津の人となりを探る。
あらすじ
序盤は名作「東京物語」についてページを割いて語られる。その中でかなり詳細な映画のあらすじが語られるのだが、それを読んでいるだけで映画のシーンを思い出し、涙が出そうになって困った。
本書では、寅さんや松尾芭蕉、志賀直哉と小津との共通点について考察している点が面白い。少し強引とも言えなくはないのだが、共通点、相違点を考えることで、小津の人物像が浮き上がってくるような気がした。しかし、松尾芭蕉や志賀直哉は作品の簡潔さから何とかわかるような気がするが、寅さんを出してくるのは意外だった。
そして著者は小津のゆかりの地を巡るのだが、その中でも小津が幼少から青年期を過ごした松阪の話が面白かった。東京下町の花街の近くで生まれ育ち、両親が教育環境を考慮して松阪に引っ越したのに、引っ越し先の近くにも花街があった、といううっかりエピソードや、真偽は不明だが「稚児事件」というものを起こして中学の寮を追い出されていたエピソードなど、知らなかった話が色々と出てくる。
中でも受験に失敗して浪人をした後、わずか一年だけ田舎の小学校で代用教員として勤務していた時の話は興味深かった。突然ローマ字を熱心に教えたり、授業そっちのけで見てきた映画の話をしてなかなかの人気教師だったようである。そして数年後にかつての教え子が、監督となって撮影所にいた小津のもとを訪れた時には、それを温かく迎え入れたという。きっと小津にとっても良い思い出となっていたことが偲ばれる良いエピソードだ。
こういった小津にとっては思い出深いはずの教員時代の話や、その他にも戦争の体験などは、本人の口からほとんど語られることはなかったようである。まるで大事なことは敢えて直接描かない彼の映画のように、それが彼の人生の作法だったのかもしれない。語ることで陳腐なものへと変わってしまうことを恐れ、大事な思い出は彼の心の中にずっと大事にしまっておく、そんな彼の美学が感じられる。
著者
伊良子序
登場する作品
結婚哲学《IVC BEST SELECTION》 [DVD]
「鹿島紀行」 松尾芭蕉
「更科紀行」 松尾芭蕉
「「都市」の中の作家たち」 川本三郎
「オーヅ先生の思い出」 飯高オーヅ会
小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)「城の崎にて」
「夕べの鐘」
「暗夜行路」(映画)
「うず潮」(映画)吉永小百合主演
何が彼女をそうさせたか クリティカル・エディション [DVD]
「偶成」朱熹
登場する人物