「ハリーの災難」　1955

★★★★☆

あらすじ

　狩りの最中に死体を発見し、誤って撃ち殺してしまったと慌てる男とそれを目撃した近所の人々。

感想

　まず舞台となるアメリカ・バーモント州の田舎町の風景が美しい。木々が色鮮やかに紅葉し、まるで絵画の世界のようだった。冒頭のこの映像だけで一気に映画の世界に引き込まれてしまう。そしてそこに一体の死体が登場する。この死体を足元の靴の裏から画面いっぱいに映し出す構図も印象的で、いい流れのオープニングだった。

　そして狩りで誤ってこの男を殺してしまったと慌てる男と、そこを通りかかる人々。皆が素っ気なさすぎる反応しかしないのが可笑しかった。最初は映画のテイストが分からず、笑っていいものか戸惑ってしまったが、あまりにもファニーなシーンをたたみ込んでくるものだから、さすがにこれはブラックコメディなのだなと気づく。

　その後はこの死体をめぐって、村の人たちのドタバタの喜劇が展開される。アメリカのコメディドラマのように、笑い声が入っていても違和感がないタイプのコメディだ。いまいち笑いどころが分からないところもあったが、おおよそは楽しめた。下ネタも案外多く、きっと普段は気取っている大人たちが喜んでいたのだろうなと想像できる。それから冷静に考えるとかなりブラックで、引いてしまいそうな酷いことをしているのだが、映像の見せ方やそれを感じさせない雰囲気で上手くぼやかしている。美しい風景もその一環のはずだ。

　ちゃんと話の筋に意味があり、それをすべて笑いにつなげていることに感心してしまう。かなり綿密に考え抜かれたストーリーだ。そして、タイトルにある「ハリー」は死体の男の名前だが、まさか死んでからこんな災難に合うとは思っていなかっただろうなと考えると、これもまたニヤリとしてしまう。

　ドタバタのコメディの中で、画家の男と子持ちの女の恋愛話も進行する。この女を演じるシャーリー・マクレーンが可愛らしかった。彼女はこれがデビュー作。ただ肝心の二人の恋愛が成就したキスシーンの時に、男にハエがたかっていたのが気になってしまった。でもこれはコメディだから良し、と判断したのかもしれない。計算されつくしたストーリーに、こんな想定外の笑いが入っているというのも面白い。