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「故郷」 1972

故郷

★★★★☆

 

あらすじ

 瀬戸内海の島に一家で暮らし、砂利運搬船で生計を立てる男は、船の老朽化をきっかけに今後について悩む。民子3部作の第2作目。

 

感想

 離党で暮らしていた一家が島を離れていくまでを描いた物語。冒頭から夫婦が船でただ黙々と働く姿が描かれて、ドキュメンタリーぽさがある。しかし砂利運搬船というものを初めて見たが、こんな風にして積んだ砂利を撒くのかと興味深かった。ビックリするくらい船を傾ける。

 

 主人公一家は口数も少なく、状況を説明することもほとんどない。そんな彼らの代わりに場を物語るのは、家に出入りする魚の行商人だ。この男を演じる渥美清がいい。無口な人たちを相手に一人で喋っているようなところがあるが、「男はつらいよ」でおなじみの、いつもの名調子でついつい聞き入ってしまう。

 

 

 社会が発展して効率化が進み、夫婦で営むような小さな船では、組織で動かす大型の船には太刀打ちできなくなっている。主人公は故郷でこのまま仕事を続けたいと願いつつも、もはやそれが難しいことに気づいている。家族に苛立ちをぶつけたりしながらも、遂には島を出て工場勤めをすることを決断する。

 

 重い空気が張りつめていた一家の中で、心を和ませてくれるのが笠智衆演じる祖父の存在だ。民子3部作の前作「家族」同様の役割を果たしている。特に意地を張っていた主人公が折れて、工場の見学に行こうとしたときの祖父の振る舞いは可愛かった。

 

 行商の男が決意を固めた主人公にかける「なんでこんな良いところを出て行かなければならないんだろうね」という言葉が沁みた。皆が効率の悪い仕事と不便な生活で満足していられるのならこんな事にはならないのだが、そうではないから仕方がない。常に満足できずに、より良いものを求めてしまうのが人間の性だ。

 

 そして人であふれる都会と誰もいない田舎の二極化が進んだ。行商の男もそのうち同じ運命をたどって島から出ていくことになるのだろう。この結果には、本当に人間は幸せになったのだろうか?と確かに思ってしまう。

 

 ネットのコピペで有名な「メキシコの漁師とMBA持ちの男の話」を思い出してしまうような話だ。だが今の情報技術の発展が進めば、また皆が好きな場所で好きなように暮らせるようになるのかもしれない。人類の発展のためには、後戻りをするのではなく、それを乗り越えていくのが理想だろう。

【原文】メキシコの漁師とMBA持ちの男の話(和文・英文) | 金平糖の分析ログ

 

  最後の運搬船の仕事をしながら、これまでの思い出を振り返るクライマックスはグッと来た。いつものように出発したのに、仕事の終わりが近づいた時に一気に感極まるところがリアルだった。

 

 そして島を出た後の新しい生活は描かれることなくエンディングを迎える。これは再出発の物語ではなく、あくまでも故郷との別れを描いた物語なのだということがよく分かる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/原作

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脚本 宮崎晃

 

出演 倍賞千恵子/井川比佐志/前田吟

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故郷

故郷

  • 倍賞千恵子
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故郷 (1972年の映画) - Wikipedia

 

 

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