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「笹まくら」 1966

笹まくら (講談社文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 大学の事務員として働く男は、かつて関係のあった女性の訃報を受け取ったことがきっかけで、戦時中に徴兵忌避者として日本中を旅したことを回想するようになる。

 

感想

 大学事務員として働く中年の主人公の現在と、徴兵を拒否して全国を逃亡していた戦時中の回想が交互に描かれていく。

 

 まずは徴兵を逃れて全国を旅する戦時中の話が興味深い。そもそも監視が厳しいからそんなことは出来ないと思っていたのに案外イケるのかとか、みな質素に暮らしているのかと思っていたのに香具師が全国を回って生計が立てられるくらいには皆生活を楽しんでいたのかとか、フィクションとはいえ戦時中のイメージを覆されることばかりだった。

 

 考えてみれば戦時中の国内のイメージといえば、大都市と農村の2パターンしかなかったかもしれない。その中間に位置する中小都市についてはあまり考えたことがなかった。主人公が腰を落ち着けた宇和島での暮らしぶりも、確かに空襲で死者を出したりはしているが、思っていたよりは心の余裕が感じられるものだった。

 

 

 国家に背き、警察の目を逃れて香具師に扮し、朝鮮を含む日本全国を飛び回る若き主人公の姿にはロマンを感じてしまう。ましてや途中で年上の女性と出会って共に旅し、やがては一緒に暮らし始めるなんて、徴兵で戦争なんかに行かされるよりも全然いい。勿論いつバレて捕まるかと冷や冷やしていたのだろうが、若き主人公にはそれすらもスリルとして心のどこかで楽しめていたのかもしれない。

 

 そんな徴兵忌避生活が、時系列順ではなく順不同で回想されていくのも、ミステリー風味があって面白い。そしてこれだけなら反逆者の青春小説なのに、徴兵逃れのレッテルが影響を及ぼすその後の人生も描くところに味わいがある。

 

 終戦直後は誰も大して気にしていなかったのに、20年ほど経ったところで世間の空気が変わり、風当たりの強さを感じるようになるなんて、まさか主人公は想像していなかっただろう。そんな気まぐれなしっぺ返しを食らわす移り気な世の中にも不信感を持ってしまう。

 

 そしてあれもこれも徴兵忌避をしたせいか?と現在の状況に疑心暗鬼になっていく主人公の姿が印象的だ。命を賭けた戦いが終わっても人生は続く。「残躯」という言葉が心に残る。どこか宗教小説的な匂いもする物語だ。

 

 

著者

丸谷才一

 

笹まくら - Wikipedia

 

 

登場する作品

アドルフ (岩波文庫 赤525-1)

 

 

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