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「銀心中」 1956

銀心中

★★★★☆

 

あらすじ

 夫と共に理髪店を営む女は、見習いとして甥を迎え入れたが、夫が戦争に召集されてしまう。

 

 タイトルの読みは「しろがねしんじゅう」。99分。

 

感想

 夫と見習いの甥と共に理髪店を営んでいた女が主人公だ。夫が戦争に召集され、戦死の誤報を受け取ったことから人生が狂っていく。冒頭でまずクライマックス直前の様子が描かれてから、過去を回想していく構成になっている。斜めに傾いた映像が尋常ならざる気配を醸し出し、不穏を煽る。

 

 主人公の夫が召集されたのは、沖縄や硫黄島に米軍がやって来た頃だ。終戦まであと少しなので、てっきりすぐに戻ってくるものだと思っていたのだが、5カ月位もあれば戦地に行って戦死するには十分だった。年表で見ると一瞬のように感じるが、当然ながら実際はそうではない。色んな事が起き得るだけの時間がある。

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 その後、見習いの甥も戦争に行くことになる。徴兵検査を来年受けるようなことを言っていたので、それまでに終戦を迎えていると思ったのだが、これは予定が早められたということだろうか。敗戦濃厚となり、日本が無謀なことばかりやっていた時期ではある。

 

 戦後、主人公は帰ってきた甥と共に理髪店を再建する。野宿からスタートして立て直したのだから立派だ。相当頑張ったのだと思うが、だとすると甥が戻ってくる前、他の理髪店で働いていた主人公がサボってゴロゴロしていたのは何だったのだろう?と思ってしまった。あまりのやる気のなさぶりに笑ってしまったが、夫も店も失い、自暴自棄の無気力になっていたということか。

 

 

 再開した店も繁盛し、甥とも恋仲になって順風満帆、ハッピーエンドとなるはずが、戦死したと聞かされていた夫が戻ってきたことから三人の人生は狂い始める。傍から見てれば夫が身を引くのが一番良いような気がするが、そんな簡単に割り切れるはずがない。主人公は夫と暮らすべきだと分かっていつつも気持ちはもう甥に移ってしまっているし、甥も去るべきだと思いながら後ろ髪を引かれている。

 

 中でも一番つらいのは夫だろう。元の生活に戻ろうと必死に戦争を生き延びて帰って来たのに、勝手に死んだことにされ、もう居ないものとして皆が暮らしていた。大喜びで迎えられると思っていたのに迷惑そうな顔をされてしまった。甥に気持ちが移ってしまった主人公を引き留める権利くらいはあるだろう。邪魔者扱いされるいわれはない。

 

 彼らにとっては戦争が終わってからの方が辛かった。直接言及されることはほぼ無いが、戦争とそれを行なった国に対する冷めた視線が痛烈に感じられる。赤紙が来た時の態度や、戦時中の夫らとの会話には、面従腹背の気配に満ちていた。

 

 やがて回想が冒頭のシーンにたどり着き、クライマックスへと向かう。二人の心が乱れて一つになれず、まともな心中すらも出来なかったのは悲しかった。登場人物は誰も悪くない。戦争がいかに人々を苦しめるのかを思い知らされる映画だ。

 

 また、戦後の混乱を女ひとりで悲惨な状況に陥ることなく生き延びた主人公や、各地を転々とした甥から、手に職を持っていることの強みを痛感する物語でもある。理髪師などの手に職があれば、いつでもどこでもやっていけることがよく分かる。

 

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 新藤兼人

 

原作 銀心中 (1961年) (新潮文庫)

 

出演 乙羽信子/長門裕之/宇野重吉/殿山泰司/北林谷栄/下條正巳/菅井一郎/小田切みき/浜村純

 

音楽 伊福部昭

 

銀心中

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銀心中 - Wikipedia

 

 

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