★★★☆☆
内容
「遅刻論」など、諸事について様々な書物を紐解きながら著者が思いつくままに綴るエッセイ集。
感想
様々なことを綴ったエッセイ集だが、食べ物に関する話が多い印象だ。身近だし共通の話題となるしで語りやすいのだろう。周りを見渡しても、テレビやSNSでも、皆が話題にしているのはほぼこのネタなのでは?と思ってしまうほどだ。
そんな中で興味深かったのは中国の犬食文化の話だ。ペット用と食用の区別なく犬を飼っていたらしい。可愛い可愛いと可愛がりながら、ある日突然その犬を食べてしまうこともあるのかと想像するとゾッとする。なかなか理解しがたい感覚だ。
そもそも犬を食べること自体が怖いが、田中角栄が周恩来、金日成と共に犬肉料理のフルコースを食べたというエピソードもさらっと紹介されていて、昔は日本人も普通に食べていたんだよなと思い返した。戦後の貧しい時に犬肉を肉屋に売ったみたいな話を何かで読んだことがある。
その他、各肉の序列は時代と共に変わるとか、遊牧民文化の流入によって羊肉に取って代わられたとか、中国にも生類憐みの令のような法令が出された時があったとか、話はどんどんと広がっていく。外交官のプレゼントした犬にまつわるジョークも笑えたが、この話が広がっていく感じが読んでいて楽しい。
それからお金をテーマにしたエッセイは少し重い感じがしたが、お金の話を愉快にするのは案外難しいことなのかもしれない。単純に数字がたくさん出てくるので小難しくなりがちだし、皆多かれ少なかれお金に苦労しているので切実すぎるのだろう。食べ物同様に身近なものなのに不思議だ。その金額は自分の給料の何か月分だろう?等と考えているうちに、愉快な気分は吹き飛んで、段々とシリアスな気持ちになってしまうからなのかもしれない。
著者
丸谷才一