★★★☆☆
あらすじ
海辺の町で病弱のため甘やかされて育った少女は、東京の大学に行った友人を呼びよせ、ひと夏を過ごす。
感想
海辺の町を舞台にした物語だが、まずこの町が風情があっていい。伊豆の松崎町という所らしいが、なまこ壁の古い街並みと海がある風景はとても魅力的で行ってみたくなった。ただ主人公たちが暮らしていた渋い旅館は、解体されてしまって今はもう無いようだが。
主人公は生まれた時から病弱で、長くは生きられないだろうと散々甘やかされて育てられた。その結果、家族には悪態をつき、友人にはブス!と言ってしまうようなタチの悪い少女になってしまった。長くは生きられないなら世の中のルールを身に付けさせるための厳しい躾なんかしても意味がないと思ってしまうのは理解できる。だが手が付けられない少女に育ってしまった主人公に対して、どうせ死ぬのだからと何も干渉せず、遠巻きに見守っているだけなのはなかなか残酷だ。
主人公はわがままなだけだったらまだ無邪気で可愛げがあるのだが、相手の触れられたくないところに敢えて触れていくような攻撃性をもっているのでとても感じが悪い。友人が悪魔のようだと評すのも頷ける。ただそれでも彼女を嫌いになれないのは、その裏に隠された繊細さに気付いているからだろう。悪態をつきながらも引っ越しをして遠くに行く友人に貰ったペンダントを大事そうに身に付けていたり、真田広之演じる男に好意を持っているのにいざとなると逃げてしまったりする。
だが考えてみれば、人の弱点を突けるのは相手が何をされると嫌なのかが分かっているからで、つまりは相手の心の機微を読み取れる人間じゃないと出来ない事だ。だから繊細なのは当然と言えば当然なのかもしれない。人の痛みが分かるのだから、逆に優しくなることもできるはずだが、わがままで気が強く、意地悪だからそれが出来ない。どうせ死ぬのだからとやりたい放題させている周囲の残酷な優しさに傷ついているのもあるだろう。
そんな主人公を、少し多部未華子に似ている牧瀬里穂が魅力的に演じている。病的で少し不気味さもあるが、ほっとけないような何かがある。そんな気を起こさせない女優が演じていたら、この映画は成立しなかったはずだ。
あまり派手さはなく、のんびりとしたペースで進行する物語だが、フラれた腹いせに主人公とその恋人に付きまとう不良グループのやることが、まるでイタリアン・マフィアのように激しくて、その落差が面白かった。
心は子供のままで大きくなってしまった少女が、少しだけ大人になったひと夏の物語。最後は悲しい結末が待っているのかと思ったが、そうはならずに安心した。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 市川準
製作 奥山和由/後藤亘/鍋島壽夫
出演 牧瀬里穂/中嶋朋子/白鳥靖代/真田広之/あがた森魚/財津和夫/高橋源一郎/下条正巳/吹越満
音楽 板倉文