★★★☆☆
内容
権力とは何か、どのように機能して影響を及ぼすのかを心理学教授が解説する。原題は「Acting With Power: Why We Are More Powerful Than We Believe」。
感想
タイトルからなんとなく「権力の握り方」みたいなものが書かれているのかと思ったがそうではなく、権力とはどのようなものでどう行使するべきかが述べられている。権力志向のギラギラした人より、権力を与えられて怖気づいてしまっている人が読むと良さそうな本だ。
そしてそこで推奨されているのが、役者のように権力者を演じることだ。だが、別人になり切るという意味ではなく、名優のように自分の元々の性質を生かしつつ演じることを重視している。
確かに権力とは人に付随するものと考えがちで、だからその人そのままのあり方で行使すればよいと思い込んでしまっている節はあるかもしれない。だが実際は、権力は人ではなく役割に付随している。だから本来はその役割に相応しい振る舞いをしなければならない。
つまり偉くなったと勘違いして権力を濫用する人はステレオタイプなクサい演技をする大根役者だし、逆にそんな器ではないと謙遜して行使することをためらう人もまた役になり切れない大根役者みたいなものだ。これでは人はついてこない。特に謙遜してしまう人は謙虚な人だと好意的に捉えてしまいそうになるが、それはそれで組織に有害な影響を与えているというのは目からうろこだった。
前半は特にだが、権力の話ではなく、演技論を読んでいるのかと錯覚してしまうほどだったが、それだけ演じるというのは重要なことだと言える。これは権力の話に限ったものではなく、社会で生きていく上で大事なものなので、もっと教育に取り込んでいくべきもののような気がしてきた。
一部の政治学者は、有権者(男女問わず)は政治家を親代わりの存在と見ていて、「強い父親」を好むことが多いと考えている。
そのようなタイプの政治家は、自分を守って欲しいと願う人や、厳しい親がいるほうが安心と感じる人には魅力的に見える。(中略)
強いリーダーに飛びつくのが最も弱い集団や個人なのも、リーダーがそのような集団の恐れや不安や無力感に容易につけ込むのも、それが理由かもしれない。
p282
権力の特徴なども紹介されており、上記などは考えさせられる。弱い集団を弱い集団たらしめているのはリーダーなのに、それで熱狂的に支持されてしまうならまともに政治なんかやる気がしなくなる。民主主義国家が減っているという話も頷ける。SNSで一般大衆を可視化してみれば、多くの人間が民主主義なんか求めていなかったことが見えてきた。言論の自由で主張する事といえば「お上に逆らうな!」だったりする。
ハラスメントなどの権力の濫用に対峙するためのテクニックなど、役に立ちそうな情報もたくさんあったが、全体としてはいまいちピンとこない内容の本だった。権力に対する欧米との考え方や文化の違いのせいなのか、翻訳の問題なのか、もともとの構成のせいなのかは不明だが。ただ、原題を「パワフルに行動する方法」と訳してしまうのは違う気がする。もっと権力的なものを感じるワードにしないとニュアンスが伝わってこない。
著者
デボラ・グルーンフェルド
登場する作品
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 (日本経済新聞出版)
行為と演技―日常生活における自己呈示 (ゴッフマンの社会学 1)
「私たちの祖母たち」 マヤ・アンジェロウ
誰もがリーダーになれる特別授業 (Harvard Business Review Press)
「裸の王様」
BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 (集英社学芸単行本)
「リフレーミング・オーガニゼーション」 Reframing Organizations: Artistry, Choice, and Leadership (English Edition)
「グレンギャリー・グレン・ロス(Glengarry Glen Ross (English Edition))」
「四匹の犬と一本の骨(Four Dogs and a Bone)」 ジョン・パトリック・シャンリィ