★★★☆☆
あらすじ
デビュー直前に事故で死んでしまった野球選手の亡霊に憑りつかれ、プロ野球選手となったうだつの上がらない青年。
感想
楽して生きることを夢見る青年が主人公だ。それだけ聞くと単なるダメな奴のように思えてしまうが、オリンピックに出て有名になろうと色んなマイナー競技に次々と挑戦しており、意外と人生の目標に真面目に取り組んでいる。楽に生きるためにちゃんと頑張っているので、そんなに方向性は間違っていないような気がする。
そんな主人公に、デビュー直前に事故死した野球選手の亡霊が憑りつく。主人公は突如野球が上手くなり、プロ野球選手となる。野球経歴ゼロの選手をよく獲得したなと思ってしまうが、それは気にしてはいけないところだろう。この獲得には当時ダイエーホークスの監督だった王貞治が関わっているのだが、あまりに唐突に普通に登場するものだから最初は彼と気付かず、しばらく伊武雅刀かと思ってしまっていた。
デビュー直後の主人公は、大活躍して一躍世間の注目を集める。だがそれに浮かれて真面目に野球に取り組まない主人公の態度は亡霊を怒らせ、力を失ってすぐに活躍できなくなってしまう。落ち込む主人公はやがて憑りついていた野球選手の無念を知り、また妹や恋人の思いも理解するようになる。
後半は、魔法の球場で復活した亡霊と、彼が生きていれば一緒にプレーしたはずの往年の名選手たちとの試合が描かれる。本物の名球会のメンバーが登場し、普通に試合をやっているのを撮っているだけのように見えるのに、それでも見応えがある。いつものように元気溌剌で皆を引っ張る金田正一がいいキャラクターだ。
もろに「フィールド・オブ・ドリームス」を意識した映画だが、亡くなった名球会のメンバーも多くなってしまった現在見ると、よりそれっぽさを感じる。案外、時間が経つごとに味わい深くなる映画なのかもしれない。ただ一方で出演している名選手たちのことを知らない世代も増えてくるので、そこで賞味期限が切れるのかもしれないが。
最後は福岡ドームで、当時の本物の主力メンバーに主人公を加えたダイエーホークスと名球会の試合が行われる。その前の魔法の球場の試合から同じような試合が続くので歩留まり感があるが、この試合では亡霊が他人の体を使って思いを果たすことへの疑義が示されている。主人公は亡霊に人生を弄ばれてしまっているなと感じていたので、それにちゃんと言及してくれて安堵した。
それから球団マスコットを牧瀬里穂演じるヒロインがやっていたことが分かるシーンがある。今や真顔で「ミッキーに中の人などいない」と言わなければならない空気になっている世の中でこれを見ると、いいのか?と不安になってしまった。今なら炎上しそうな演出だ。
そして主人公が野球を続けることを決意してエンディングを迎える。なんだかいい話みたいになっているが、普通の男がプロの世界に残ったところでどうなるものでもないだろうと疑問を感じてしまった。やる気はあるけど力不足で苦悩する不幸な未来を想像してしまい、少し苦しくなった。
スタッフ/キャスト
監督 大森一樹
脚本 尾崎将也
出演 萩原聖人/牧瀬里穂/池内博之/八名信夫/桃井かおり/斎藤洋介/金田正一/王貞治/上田耕一/高橋里華/パンチ佐藤/横山たかし/有藤通世/稲尾和久/江藤慎一/大島康徳/梶本隆夫/門田博光/北別府学/衣笠祥雄/小山正明/柴田勲/鈴木啓示/高木守道/張本勲/平松政次/広瀬叔功/福本豊/松原誠/皆川睦雄/谷沢健一/山内一弘/山崎裕之/山本浩二/米田哲也/ランディ・バース/村田兆治/森脇浩司/岩切英司/渡辺秀一/土井雅弘/工藤公康/福田信一/斉藤和巳/坊西浩嗣/小久保裕紀/小川史/林孝哉/澤田剛/秋山幸二/村松有人/脇坂浩二/西島貴之/吉本一義
音楽 かしぶち哲郎