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「ザリガニの鳴くところ」 2022

ザリガニの鳴くところ (字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 街の有力者の息子が湿地帯で死んでいるのが見つかり、その近くに一人で住み、皆に「湿地の娘」と呼ばれていた若い女が容疑者として逮捕される。126分。

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感想

 幼い頃に湿地の家に置き去りにされ、そのまま学校にも通わず一人で生きてきた若い女が主人公だ。そんな彼女を町の人は気味悪がり、「湿地の娘」とよんでいる。容疑者となった彼女の裁判と、彼女の過去の回想が並行して描かれていく。

 

 彼女が一人で暮らすことになった経緯は壮絶だ。暴力を振るう父親に耐えきれなくなった母親がまず出て行き、やがて同様に兄や姉が出ていく。そして主人公と父親だけになったところで父親が出て行ってしまう意表をつく展開だ。出て行った母親や年上の兄弟たちは余裕がなくなり、自分の身を守ることで精一杯だったのだろうから仕方がないが、まさかその後こんなことになっているとは思わなかっただろう。

 

 

 だが、一人になった幼い主人公が、サポートしてくれる人がいたとはいえ、独力で生きていけたのはすごい。しかもその日を何とか食いつなぐだけではなく、湿地の生物のスケッチを楽しんだりと、ちゃんと「生活」をしている。行政の保護を拒絶するほどで、湿地での暮らしに完全に順応していたと言っていいだろう。その後は書き溜めたスケッチを出版して、経済的にも安定した。

 

 もはや一人で余裕で生きていけそうだった主人公だったが、それでも年頃になると、異性を求めるようになったのは自然の摂理ということだろうか。しかし、彼女に読み書きを教えてくれた最初の男は納得だったが、次の死んでしまった良家の男は初めから不誠実さが滲み出ていたので、それでも付き合うのかと意外だった。そして案の定それが露呈し、主人公を脅かすようになる。女の平穏な暮らしを脅かすのはいつも男だ。

 

 ただこの男も、主人公がプレゼントするも母親は醜いと思っていた首飾りを肌身離さずつけていたわけだから、彼女のことを本当に好きだったのかもしれない。だが世間体やしがらみに囚われて、「湿地の娘」と呼ばれる彼女への想いを遂げられなかった。だからといって、彼の行った酷い仕打ちを正当化する事は出来ないが。

 

 裁判では、気の毒な境遇の主人公に手を差し伸べることのなかった町の人々に対して、批判の目が向けられている。主人公もそんな彼らに敵意を表わしていた。

 

 主人公は幼い頃に一度だけ学校に行こうとしたが、同級生の冷たい視線に耐え切れず、数時間であきらめてしまった。初日はそんな思いをすることがあるかもしれないが、そのうち皆の態度も変わってくるはずで、もうちょっと頑張ればいいのに、と思ってしまった。だが、家族も誰も助けてくれないような状況で、もっと頑張れと気軽に言ってしまうのは酷なことなのかもしれない。むしろ、そんな状況で勇気を振り絞ってよく学校に行ったとほめるべきなのだろう。

 

 裁判の結果やその後の展開は、それまでの流れからなんとなく想像がついたが、主人公が悪い顔をして終わるのかと思ったら、生き残るためにはそんなの当たり前、みたいな、悪びれた様子が全くなかったのは逆に良かった。ザリガニが鳴くような自然の奥深くで生きてきた彼女にとっては、それは当然の自然の摂理だったのだろう。すぐ真相を明らかにせずに長いスパンをとったのも、時間がもたらす無常を感じられて味わい深かった。

真実の行方 (字幕版)

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 主人公の青春物語や一代記、女性や子供の抑圧の話、また、裁判ものやミステリーものなど、色んな要素がつまった物語だ。堪能できた。

 

スタッフ/キャスト

監督 オリヴィア・ニューマン

 

原作 ザリガニの鳴くところ (ハヤカワ文庫NV)


製作 リース・ウィザースプーン/ローレン・ノイスタッター

 

出演 デイジー・エドガー=ジョーンズ/テイラー・ジョン・スミス/ハリス・ディキンソン/マイケル・ハイアット/デヴィッド・ストラザーン/サム・アンダーソン/ギャレット・ディラハント/アーナ・オライリー

 

ザリガニの鳴くところ (字幕版)

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ザリガニの鳴くところ - Wikipedia

 

 

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