★★★☆☆
あらすじ
直方体の謎の物体モノリスの登場により目覚ましく進化した人類は、新たに月に現れたモノリスに導かれるように土星を目指す。
感想
先日久しぶりに映画の「2001年宇宙の旅」を見て、やっぱりよく分からないなとモヤモヤする部分があったので、この小説版を手に取ってみた。ちなみにこの小説は、映画の原作でもノベライズ版でもなく、映画と同時進行で書かれたものだ。だから映画とのコラボ作、競作小説とでも呼べばいいのだろうか。最終的には映画が先に完成し、小説との間で内容が食い違う部分がいくつかある。
読んでみると、映画ではよく分からなかった部分が、そういう事だったのかとはっきりとわかるようになる。逆に映画に対して、それでは伝わらないよと文句を言いたくならないでもない。だが映画はあれで正解だった。説明のナレーションを加える案もあったらしいが、そんな事をしたら映画の神秘性がなくなってしまっていたはずだ。信じられないほどの美しい映像に、なんだかよく分からないが意味ありげなストーリーだったからこそ、人々を魅了することが出来た。
しかし、人類を上回る進化をしている宇宙人はもはや実体を持たず、精霊のようなものになっているかもしれないという発想はすごい。人間の思考もコンピューターに移せるかもしれないのだから、その次の段階は入れ物を必要としない、宙に漂うだけの存在になるのかもしれない。そうなってくるともはや「生きる」とは何か、わけがわからなくなってくるが。
映画ではコンピューターのハルの反乱が印象的だったが、小説を読んでいるとこの話がどうして出てくるのか、逆に不可解に思えてしまう。全体のストーリーから考えると異質だ。何か事件が起きないと物語が淡々と進行するだけになってしまうからと考えたのかも知れないし、もしかしたら道具によって劇的な進化を遂げた人類が、いつの間にか道具に振り回されるようになって滅亡してしまうのか、そうはならずに次の進化の段階に突入できるのかのターニングポイントとして描いているのかもしれない。
電子新聞の細かい見出しを見ていて、もう一つ思いだされることがある。コミュニケーション手段が発達するにつれ、その中身がますますくだらなく、けばけばしく、陰惨に見えてくることだ。
p94
読み進めていると、50年以上前に書かれたとは思えない鋭い指摘があったりして感心する。こちらの宇宙に対する知識不足のせいで、細かい描写が上手くイメージできずに少し苦労したが、あの映画に対する理解が深まっていく、という意味で楽しい読書体験だった。
著者
アーサー・C・クラーク
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