★★★☆☆
あらすじ
日常生活で問題ばかり起こしていたアメリカ海兵隊の歴戦の英雄が、久しぶりに現場に復帰する。
感想
クリント・イーストウッド演じる主人公は、戦争になると生き生きとするが、平時だと駄目になってしまう定年間近の軍人だ。平和な世の中だと、実戦経験豊富なベテランというのは若手にとって扱いづらい存在なのかもしれない。
勝手に戦争体験がないことにコンプレックスを抱いてしまったり、マニュアル通りではなく、経験に基づいて動く彼らに困惑したりしている。だが有事になると活躍する彼らを、平時に切り捨てずいかに温存しておけるかが国力のバロメーターだと言えるかもしれない。
映画とは全く関係ないが、今の政治家に妙に好戦的な態度を示す人たちが多いような気がするのは、彼らが戦後に生まれた世代だからなのかもしれない。この映画の若手たちと同じように彼らは戦争体験のある上の世代にコンプレックスを抱いており、その裏返しで俺たちも戦えばすごいんだぞと勇ましさをアピールしているように見える。だとしたら幼稚で子供っぽい。戦争体験者をなぜか小バカにするのもこの手の人たちがやりがちなことだ。
主人公は戦えない鬱憤に、酒に酔って暴れてしまうような男だ。だから平時は全くの役立たずなのかと思っていたが、そういうわけでもなく、部隊を訓練し戦える集団にまとめ上げている。だから、たとえ戦争がなくても彼は軍人として優秀なのだろう。
生意気な若者たちを力でねじ伏せ、従わせる。軍規がどうとか言っても結局は腕力がものをいう世界で、そこは動物と変わらないなと痛感する。部下を絶対服従させるために、毎回着ているTシャツを脱がせるくだりは軍隊あるあるの理不尽な仕打ちだが、なんだか面白かった。
主人公の厳しい訓練により次第に部隊に一体感が生まれ、彼らと共に主人公を嫌う若い上司の鼻を明かすことも出来た。主人公は敵に回すと厄介だが、仲間にすると頼もしいことこの上ない。そう思わせることは、戦地で生き残るために必要な事なのかもしれない。さすが軍人として勲章をたくさん授与されているだけのことはある。
だがそれと同時に、華やかな戦歴とは裏腹に思うようにいかなかったプライベートを振り返ってしんみりとするシーンもある。このあたりは、人生の終盤を迎えたベテランならではと言えるだろう。別れた妻と再会し、上手くいかなかった理由を聞き出し反省もしている。軍人としては満足しているが、人生に対しては悔いを残している。
若い部隊に自信の経験と魂をしっかり注入し、そのまま老兵はただひっそりと去っていく、という感慨深いエンディングでもよかったような気がするが、ラストにグレナダ侵攻という実戦が待ち受けていた。
映画的に盛り上げたかったというのもあるだろうし、アメリカの観客に平和ボケされても困るというのがあったのかもしれない。その後もアメリカは何度も戦争をしているわけで。ただこの戦争シーンも含めて、描きたかっただろう事のどれもが中途半端にしか描けていないような気がした。
スタッフ/キャスト
監督/製作/出演
出演 マーシャ・メイソン/エヴェレット・マッギル/モーゼス・ガン/マリオ・ヴァン・ピーブルズ/アイリーン・ヘッカート/ボー・スヴェンソン/トム・ヴィラード
音楽 レニー・ニーハウス
撮影 ジャック・N・グリーン