★★★☆☆
あらすじ
父親の失踪後、奇妙な出来事が起こるようになった若い女性から相談を受けたシャーロック・ホームズは、ワトソンと共に調査に乗り出す。
原題は「The Sign of Four」。別邦題に「四つの署名」「四人の署名」。
感想
冒頭でいきなり、ホームズがコカインをやっている様子が詳細に描写されて戸惑ってしまった。今ならとんでもないアウトロー小説が始まったと思ってしまうが、当時は違法でもなんでもなかったので、煙草を嗜むくらいの感覚だったのかもしれない。
ホームズの元に、父親が失踪した若い女が相談にやってきたことから物語は動き出す。問題のあらましを説明する中でタイトルになっている「四つのサイン」も出てくるのだが、それがどんなものなのかいまいちイメージ出来なくて、うまく話に入っていけなかった。
そして一連の動きの中で殺人事件が起きたりもする。しかし色んな謎はサクサクと解かれていく。順調すぎて、途中で船を捜索することで時間を置くほどだった。だがこの不意に訪れた停滞により、ジリジリとした気持ちにさせられたのでうまい構成だ。そしてこの後には活劇的展開が待っている。しっかりと緩急がつけられている。
義足の男や未開の地の謎の小男、不気味な死に顔など、おどろおどろしい雰囲気を湛えたミステリーだ。そんな中でワトスンが、事件そっちのけで自分のロマンスのことばかりを考えているのが可笑しい。そして最後はホームズのコカインネタで締めくくられる。コカインではじまりコカインで終わるとは、まるでジャンキー小説みたいだ。
それから巻末に収められている「訳者あとがき」は、まるで陰謀論を延々と聞かされているような暗澹たる気持ちになってしまった。いわゆるシャーロキアンということなのだろうが、シャーロック・ホームズに限らず一つのことに熱狂すると良くも悪くもこうなってしまうのかと怖くなる。
著者
アーサー・コナン・ドイル
訳 小林司/東山あかね
登場する作品
「人類の苦悩(The Martyrdom of Man (English Edition))」
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