★★★★☆
あらすじ
スウェーデンからアルプスにスキー休暇を楽しむためにやってきた一家は、雪崩の際に夫が妻と子供たちをおいてひとり逃げてしまったことから、不穏な空気が漂い始める。
原題は「Turist」。118分。
感想
雪崩の対応が原因で、せっかくのバケーションに暗雲が立ち込めていく家族の姿が描かれる。家族を放置して逃げた夫を、妻がその場で責め立てでもしてくれれば分かりやすいコメディになったのに、そうはしないところが心憎い。
妻には休暇を台無しにしたくない想いがあったのだろうし、夫にも内心ではやってしまったという後悔や不安が見える。二人はなにも見なかった、なにも問題がなかったことにして、楽しい家族旅行を続けようとする。日常でよく見られる光景で、その気持ちは痛いほどよく分かる。お互いに喧嘩なんかしたくないのだ。
だが妻にはわだかまりが残っており、やはり許せないとの気持ちが強まっていく。それでもその気持ちを抑えようとするものだから、逆に変なところでそれが顔を出し、おかしな状況を生み出してしまう。友人カップルとの夕食の席で妻が夫を責め出して、なぜかその友人が両者を必死にフォローし、カウンセリングみたいになってしまっているシーンは、なんだこの状況は?と笑ってしまった。
問題が起きるたびに夫婦がわざわざホテルの廊下に出て話し合いをしたり、妙に一家の排尿シーンが登場したり、夫がギャン泣きしたりと、奇妙なシーンが多く、大きな括りとしてはコメディと言えるのだろう。だが笑えるというよりも、笑っていいのか困ってしまうような気まずい気分になると言った方が正確かもしれない。
素直に笑わせてくれないこれら描写には、監督の性格の悪さを感じてしまうが、誰にも身に覚えがありそうな居心地の悪い状況の数々には、つい見入ってしまうような吸引力があった。また、そんな奇妙なシーンにも、個人・夫婦・家族・公共といった各単位の間のどこか不思議な関係性を描いているようにも感じた。
ギクシャクした一家の休暇最終日は、もっと後味の悪いクライマックスになるのかと思っていたので、ちゃんと救いのある展開となったのは意外だった。監督はそこまで嫌な性格ではないのかもしれない。だがエンディングで夫がタバコを吸い始めた様子には、変に格好をつけなくなったのか、それともまた調子に乗り始めたのか、どっちなのだろうと考えてしまった。
白く静かな映像も印象的な雪山で展開される、ある一家の不協和音を描いた物語だ。後を引く面白さがある。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/編集 リューベン・オストルンド
出演 ヨハネス・バー・クンケ/リーサ・ローヴェン・コングスリ/クリストファー・ヒヴュ/ブラディ・コーベット
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