★★★☆☆
あらすじ
妊娠した妻がおかしくなり、生まれた子供に十分な食事を摂らせようとしないことに不安を募らせる夫。
イタリア映画。109分。
感想
妻がおかしくなり、生まれたばかりの子どもを心配する夫が主人公だ。妻が子供の面倒を見ようとしないネグレクトであればまだ対処のしようがあるが、育てる気は満々なのにおかしな思想に囚われてしまっているのだから厄介だ。
しかもその思想による子育て方針が、満足な食事を与えない、外に出さないなど、子どもの命に関わるようなものばかりだ。心配した主人公が妻に内緒で病院に連れて行ったり、隠れて食事を与えたりするのだが、それを知った妻はますます心を頑なにしていく。この状況を打破するには子供を妻から引き離すしかない。だが法的には誘拐になってしまうというのだから詰んでいる。
おかしな考えに憑りつかれ、自らもやせ細っていく妻を演じるアルバ・ロルバケルは、鬼気迫るものがあった。よく知っているはずの人が知らない人間のように見えてくるのは怖い。だがそもそも、この妻がそんな思想に憑りつかれてしまった経緯がよく分からなかった。妊娠中に起きた出来事やかけられた言葉を独自に解釈し、自己暗示にかけてしまったということだろうか。
あまりピンと来ないが、ナーバスになりやすい時期なのであり得ることなのだろう。もしかしたら、二人の出会いを描いた冒頭のファニーなシーンも、彼女にとっては子供が夫同様に毒されるかもしれないと不安を植え付けるような暗示の一つになってしまっていたのかもしれない。
しかしあまり映画と関係ないが、自然派志向の人がクリーンな環境を求めるのがよく分からない。汚染された外の世界に連れ出すのを渋っていたが、自然界なんてバイ菌だらけなのだから、どちらかと言うと早めに外で雑菌にまみれて遊ばせた方がナチュラルな気がする。
物語はやがて悲劇的な結末を迎える。出来ることが限られている状況の中では仕方がない選択だったと思えるが、それでもまだ出来ることはあった。子供と引き離している間に、妻を病院に連れて行くべきだった。しかし切羽詰まった状況の中ではそこまで頭が回らなかったのだろう。子供優先になるのは仕方がない。
ここまで極端でなくても、世間の夫婦はきっと同じように子育ての方針をめぐって日々衝突を繰り返しているのだろう。夫婦の共同作業の難しさと、愛する人が理解出ない人に変貌していく恐ろしさを描いた物語だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 サベリオ・コスタンツォ
製作 マリオ・ジャナーニ
出演 アダム・ドライバー/アルバ・ロルバケル/ロベルタ・マックスウェル