★★★★☆
あらすじ
学年新聞で四コマ漫画を描いていた少女は、同じように漫画を載せるようになった引きこもりの同級生にライバル心を燃やすようになる。58分。
感想
漫画を描くのが得意な少女が主人公だ。彼女は皆に褒められても素直に喜べず、たいしたことないよと嘯いてしまうような子供だ。そんな自負心の強い主人公の前にライバルが現れたことから、彼女は必死に画力上達のための努力をするようになる。小学高学年のいろんなことに興味を持ち始める時期に、それだけに打ち込む彼女の姿には心打たれるものがあった。
これは彼女の強がってしまう性格も影響していたのだろう。自分はまだまだこんなものではないと常に上を見ているからこそ出来ることだ。ただ、まだ本気出していないだけ、みたいな言い訳をしてもおかしくないところを、ちゃんと本気を出して、それを証明しようとするのが偉い。
やがてライバルの少女と仲良くなり、彼女の協力を得て主人公は本格的に漫画を描くようになっていく。ここでは主人公にリスペクトを示すライバルだった友人の存在が大きい。何もない田舎は何かに打ち込むにはいい環境だが、何もないだけにモチベーションを保つのは難しい。そんな状況で、自分の理解者が近くにいてくれことるほど心強いことはないだろう。
デビューも果たし順調だった二人の関係は、友人が大学に進学したことで終止符が打たれる。彼女も友人にモチベーションを与えていたのだ。この後二人がどのようなかたちで再会を果たすのかと思っていたところで、思いもよらない悲劇が起きてしまった。
主人公は悲劇は自分のせいだと自責の念に囚われるのだが、次の瞬間、主人公と出会わなかったパターンの友人の人生が描かれ始める。そこでは主人公と出会わなくても大学へ進み、悲劇に見舞われる友人の姿が映し出される。大して影響がなかったと少し救われた気になるが、このパターンでは主人公に出会うことで友人が悲劇から助かっているので複雑な気分にもなる。やっぱりその前に出会わなかったほうが良かったのかも、と思わないこともない。
だが主人公は、友人が死ななかったかもしれない世界線を想像することで、彼女の部屋に入る勇気を手にした。そして誰もいない部屋を確認することで、彼女の死を本当に受け入れることが出来た。彼女の不在を実感するためにには彼女が存在する物語を作り上げる必要があったのだろう。これが物語の力だ。
彼女と切磋琢磨した思い出を胸に刻み、再び主人公は漫画を描き始める。情熱を燃やし続けるにはモチベーションが必要だ。だが時にそれは、犯人のように暴走してしまうこともある。元ライバルとの友情の中にそれを見つけることが出来た主人公は、幸せだったと言えるだろう。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 押山清高
出演 河合優実/吉田美月喜
音楽 haruka nakamura