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「浮草物語」 1934

浮草物語(活弁入り)

★★★☆☆

 

あらすじ

 旅芸人一座を率いる男は、昔子供を産ませた女がいる町を久々に興行で訪れる。舞台の合間に親子の団欒を楽しんでいたが、現在の内縁の妻にそれがバレて思わぬ問題が起きてしまう。

 

 「喜八もの」第1作。キネマ旬報ベスト・ワン作品。モノクロ・サイレント映画。

 

感想

 かつて子供を産ませた女のいる町にやって来た旅芸人一座の座長の男が主人公だ。久々に会う我が子の成長を喜び、将来を楽しみにしている。だが、当時は普通なのかもしれないが、子供が徴兵検査に余裕で受かるだろうことを喜ぶ父親の姿はなんだか切ないものがあった。

 

 主人公は、自分みたいな旅芸人が父親では可哀想だと素性を隠し、知り合いの愉快なおじさんとして息子と接している。それでも、舞台の合間を利用して一緒に将棋をしたり、釣りをしたりする様子はとても幸せそうだ。

 

 

 ただ、主人公が釣りをしている時に川に財布を落とし、流れて失くしてしまったのにあまり気にしていなかったのには驚いた。だが、今だと銀行カードやクレジットカードの面倒な手続きのことが気になってしまうが、当時だと本当にお金しか入っていないから、金銭的な損失さえ受け入れられるならそこまでダメージはないのだろう。

 

 今は便利な世の中だが、この時代もこれはこれでシンプルでいい。財布に落ち込むほどの大したお金なんか入っていないだろう、と言うオチだった。そんなちょっとした笑いも交えながら物語は進む。

 

 だが、共に各地をまわる内縁の妻が、主人公に旧知の女と子供がいたことを知って激怒してしまう。感情的には分からないではないのだが、子供が生まれたのは十何年も前のことだ。今さら何を言っても仕方がないように思えて、彼女に同情できなかった。その後に彼女が行った仕返しの企ても理不尽に感じてしまった。

 

 やがて彼女の企みによって事件が起き、その過程で真実を知った息子と主人公の愁嘆場が訪れる。だが、そこから強く見えてくるのは旅芸人の悲哀だった。町から町へと旅を続けて一つ所に落ち着くことがなく、雨の日が続いただけで生活に窮してしまうような不安定な生活だ。そもそも主人公が、息子には自分のようにはなってもらいたくないと思っていること自体が哀しい。父親だと名乗る事すらためらってしまっている。

 

 だが主人公は、この厳しい稼業を続けていくしかない。そう考えると内縁の妻が、主人公に隠し子がいたことにあれほど怒ったのも理解できるような気がした。互いに明日をも知れぬ身だと支え合って生きてきたつもりだったのに、相手の男はいざとなれば退避できる場所を確保していた。相手が自分と同じではなく、実は保険をかけていたと知ったら腹が立つのも無理はない。

 

 大きな代償を払いつつも、主人公が再出発を図るシーンでラストを迎える。だが結局こうなるのなら、途中で余計なことをしないでそのままにしておいても良かったのでは?と思わなくもない。振り回された一座の者たちが不憫に感じてしまった。

 

 ちょっとウェットすぎるきらいはあったが、人生の悲哀が感じられるしんみりとした人情物語だ。

 

スタッフ/キャスト

監督/原作*

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*ジェームス槇 名義


脚本 池田忠雄

 

出演 坂本武/八雲理恵子/飯田蝶子/三井秀男(三井弘次)/突貫小僧

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*ノンクレジット

 

浮草物語 - Wikipedia

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