★★★★☆
あらすじ
舞台はファシズムが台頭する1938年のポルトガル。小さな新聞社で文芸欄を担当する中年の男は、たまたま目にした論文の若い作者を雇おうと電話をしたことで、彼の人生は変わっていく。
感想
タイトル通り、供述書のようなスタイルで書かれた小説。そのため、会話であっても平文の中で記述され、改行もほとんど無く、中盤ぐらいまで文体になかなか馴染めなかった。数ページの章で区切られているのが救いだった。
主人公は妻を亡くし、孤独に暮らす新聞社の中年男。たったひとりの文芸部員で仕事も一人、死んだ妻の写真に話しかけ、甘いレモネードを好み、最近出てきたお腹を気にしている。凡庸な、どこにでもいるような惰性で生きているような男に見える。
そんな主人公がふとしたきっかけから、若い男女と知り合うことになる。詳しくは語られないがレジスタンスに関わっている男女。彼らに危険なものを感じつつも、何故か関係を絶とうとせず、つい金銭面などで支援をしてしまう。
おそらく主人公は何も深くは考えていない。だがファシズムが台頭する世の中で無意識に危機感は感じ取っていたのだろう。自身が担当する文芸欄で、そんな世相に逆行するようなフランスの作家たちを自然と取り上げていたのは その表れかもしれない。関わるとヤバそうな若いカップルに親身になってしまうのも同様だ。
だが彼が自身の信念に目覚めていったかと言えば、そうではないだろう。体制派の編集長に叱責されて、あっさりとその指示に従おうとしたことからも明らか。健康のために禁止された甘いレモネードを、飲んだり飲まなかったりする程度の意志の強さでしかない。
そんな彼でも状況が整えば、勇気ある行動を取ることが出来る。世の中に変化を与えるのは誰か一人の強い意志ではなく、皆のちょっとした勇気なのかもしれない。最初は散発でも、次第にそれはひとつの大きな流れになっていく。
最初は読むのに苦戦していたが、後半以降はのめりこんで一気に読んでしまった。主人公の行動に勇気づけられ、彼のその後に幸あれと思うのだが、この小説のタイトルから考えるに、まぁそういうことなのだろうな、とちょっと寂しい気持ちになってしまう。だがきっとこれが大きな流れの中の一つとして、意味あるものであったことは間違いないだろう。
著者
アントニオ・タブッキ

供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
- 作者: アントニオタブッキ,Antonio Tabucchi,須賀敦子
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登場する作品
Sogno (ma forse no). Bellavita (Biblioteca italiana) (Italian Edition)
ベルナルダ・アルバの家 (1956年) (てすぴす叢書〈第42〉)
「ザング=トゥム=トゥン」 フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ
「友の唄」
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