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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「息吹」 2019

息吹

★★★★☆

 

内容

 表題作「息吹」を含む9つのSF短編集。 

 

感想

 どの短編も読みごたえのある内容。気軽に読めるというよりは、じっくりと味わってどっしりと疲れがくるような濃厚さがある。一つの短編を読み終えるたびに本を閉じ、しばらく考え込んでしまうような深みのある作品群。

 

 中でも印象的だったのは、AIBOを連想させるようなAIを持ったヴァーチャルペットについて書かれた「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」。本書の中では一番長い作品で、短編というよりも中編といったボリュームの作品。

SONY AIBO ERS-1000 アイボーン付属

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  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

 感情移入してしまったAIを持つヴァーチャルな存在に対して、どのような関係を持つべきなのか、という問いかけがなされている。でも、これは実際の子育てと似ているかもしれない。親としては子供を危険な目に合わせたくないし、守ってやりたいと思うものだが、子供はやがて成長し、親が望まないことをやりたがるようになる。その時に親には責任があるから、と子供の意志や希望をすべて排除してしまっていいのか。いつかはそれを尊重してやらなければいけない時が来る。ただ、相手が人間じゃなくコンピューターだと、愛着を持っている人と持っていない人とでは意見が分かれてしまう部分ではある。どうせコンピューターだからどうでもいい、となる人も当然いる。

 

 そういった物語の中で、発展していくペットとの関係の結び方が興味深かった。仮想世界の中にいたペットを、小さなロボットにログインさせて、現実世界で互いに触れ合えるようにしたり、さらには現実世界に呼び出しておいて、端末を操作して別の仮想現実にログインさせたりする。そして、現実世界から仮想現実を操作することを、ペットはつまらないと不平を言ったりするのも、なんだかわかるような気がした。

 

 

 現実世界でヴァーチャルペットに権利を与えるために法人化しようとするアイデアも面白い。人間じゃない意思を持つものには、法人格を与えてしまえば、人間と同じ扱いを受けることができるということか。

 

 その他、動画でライフログを取り、検索していつでも過去を振り返られる世界を描いた「偽りのない事実、偽りのない気持ち」も考えさせられた。過去の思い出が、すべて自分に都合よく書き換えられていたという事を知ってショックを受ける、というもの。これは誰もがやっている事で、そうすることで正気を保つことが出来ているともいえる。ただ、歴史修正主義者は非難されるが、個人は自分の歴史を都合よく修正して生きているのか、と思うとちょっと複雑な気分になった。

 

 時間をかけてゆっくりと読みたいような作品ばかりがラインナップされた短編集。

 

著者

テッド・チャン

 

息吹

息吹

 

 

 

登場する作品

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ヴァイル:三文オペラ(全3幕)(新クルト・ヴァイル版)

マック・ザ・ナイフ

神曲【完全版】

 

 

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