★★★★☆
あらすじ
殺人事件の犯人から守るため、目撃者の少年と母親と共に彼らの住むアーミッシュの村に向かった刑事ジョン・ブック。
原題は「Witness」。アカデミー賞脚本賞、編集賞。113分。
感想
冒頭の、中世の農村かと思わせておいて実は現代だった、となるシークエンスが見事だったが、旧式の生活様式で暮らす宗教集団、アーミッシュを題材にした物語だ。最初はまんまと、これって刑事が出てくる現代劇じゃなかったっけ?と騙されてしまった。
主人公の刑事が、殺人事件の犯人が身内の警察官であることを知り、身の危険を感じて目撃者となったアーミッシュの少年の村へと向かう。まずは事件の捜査である程度引っ張るのかなと思っていたのに、すぐに犯人の目星がつき、しかも自白するかのように向こうから間髪入れずに攻撃してくるので、拍子抜けしてしまった。サスペンス要素はあまりない。
そしてアーミッシュの村での潜伏生活が始まる。少年の母親との恋や村人たちとの交流など、ヒューマンなドラマがメインだ。現代人の主人公が、原初的な生活を送るアーミッシュと暮らすことで起きる文化的な衝突が描かれる。
村人が皆で集まり大きな家を建て、その後一緒に全員で食事するシーンなどは、こんな生活も悪くないかもと思わせるものがあった。だがその一方で、主人公と目撃者の母親の関係を村人たちが密かに噂し合い、コソコソと盗み見するなど、「ミッドサマー」的な閉鎖社会の恐ろしさを感じさせる瞬間もある。
きっと無理することなく順応できる人には幸せだが、そうでない人には地獄のような場所になってしまうのだろう。やっぱり、今の社会が目指している(はずの)どんな人でも幸せに暮らすことができる多様性のある社会の方がいいなと思い直した。その中でアーミッシュ的な生活を望む集団が存在するのなら、誰も不幸にならずに済む。
終盤は、高まる二人の恋愛感情、襲撃してきた警察との決闘、そして西部劇のように去っていく主人公と、色々な要素が積み込まれており、畳み掛けてくる。そんな中に、黒澤映画のように庶民の力を描くシーンもあってグッと来た。
切ないラストだったが、色々考慮するとこうせざるを得ないのだろう。ハッピーエンドにしてしまうと、その後にどちらかが多大なる犠牲を払うことになるはずだ。その覚悟があるならいいのだが、最初から二人ともそれは出来ないと分かっていた。本来出会うはずのない二人だった。
スタッフ/キャスト
監督 ピーター・ウィアー
脚本/原案 ウィリアム・ケリー/アール・W・ウォレス
出演
ケリー・マクギリス/ルーカス・ハース/ヤン・ルーベス/アレクサンドル・ゴドゥノフ/ダニー・グローヴァー/パティ・ルポーン/ヴィゴ・モーテンセン
編集 トム・ノーブル