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「ミッドサマー」 2019

ミッドサマー(字幕版)

★★★★☆

 

あらすじ

 家族を失う辛い体験をした女子大生は、恋人らと共に地元スウェーデンの夏至祭に訪れるよう留学生の友人に誘われる。

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感想

 家族に悲しい事件が起き、情緒不安定な女子大生が主人公だ。彼女は、文化人類学のフィールドワークも兼ねて留学生の友人の地元、スウェーデンの夏至祭を訪問する恋人らに同行する。現地到着後の北欧のイメージそのままの淡い色合いの映像や、どこかおとぎ話の世界のような村の様子には心和まされた。

 

 このスウェーデンの小さな村で、傷心の主人公の心が癒されていくのかと思いきや、のどかな雰囲気に心和んでいたことが腹立たしくなるくらいのホラーな展開が待っていた。何日にも渡る祭りの儀式が進行する中、人畜無害に思えたコミュニティが少しずつ狂気を見せ始める。自分たちには異常としか思えない行動を平然と取る人々とは意思の疎通が図れるとは思えず、分かり合えない気がして恐くなる。静かな恐怖が襲う。

 

 コミュニティへの到着時に、主人公の友人らが前近代的な集団生活を送る村人らを見て「カルト宗教?」と笑い合っていたが、誰もが思いそうなことを先に吐き出させて冗談として消化してしまう演出は上手かった。普通のホラー映画だと気づかない振りをしてしまいがちだが、不自然になってそればかりが気になるようになってしまったりする。だが先にそれを潰しておくことで、観客は気兼ねなくその後の展開を楽しめるようになる。

 

 

 実際、現実世界でも「冗談のつもりだったのに…」となることは案外多い。その後の「人生の四季を終えた後はどうなるの?」という質問に対する答えもジョークとして笑っていたが、ちゃんと伏線になっていた。

 

 序盤は、白い民族衣装の村人たちの間を、よそ者の主人公らが私服でうろうろする異質な姿が目立っていた。だが終盤になると、気付けば私服の人間は主人公の恋人だけになっていた。よそ者が村人たちに取り込まれていく様子が視覚でもよく分かる。この村に到着した時の主人公一行が皆淡い色合いの無地のTシャツを着ていたのが印象的だったが、これはやがて村人たちと同化していくことを暗示していたのかもしれない。

 

 主人公は、友人らとは別の形で結末を迎える。家族の事件の悲しみを恋人とすら共有出来ずに心を病んでしまった彼女にとって、異常ではあるがなにごとにも一体感を求めるこの共同体の姿勢に親近感を覚えてしまったのだろう。その結果がラストの笑顔だ。心が弱ってる時に近づいてきて、全力で寄り添ってくる宗教団体みたいなものだ。だが彼女は草花と一体化する幻覚を見たりしているので、元々この地との親和性は高かったと言える。

 

 引くほどグロいシーンもあり、淡い色合いにカラフルな花の洒落た雰囲気の中で突然それを放り込んでくるなんて性格悪いなと思ってしまうが、確かに効果的ではあった。そしてグロテスク過ぎて誰が誰だか分からなくなってしまっていたシーンは、やり過ぎ感があってちょっと面白かった。

 

 すべてが分かった後に振り返ってみると、なによりも彼らを誘った友人のスウェーデン人留学生が恐ろしい。スウェーデンのイメージダウンになりはしないかと心配してしまった。日本に限らず、世界中どこでも古い風習が残る田舎は恐ろしいということだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 アリ・アスター

 

出演 フローレンス・ピュー/ジャック・レイナー/ウィリアム・ジャクソン・ハーパー/ヴィルヘルム・ブロングレン/ウィル・ポールター/ビョルン・アンドレセン

 

撮影    パヴェウ・ポゴジェルスキ

 

ミッドサマー(字幕版)

ミッドサマー(字幕版)

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ミッドサマー (映画) - Wikipedia

 

 

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