★★★★☆
あらすじ
豪傑として知られる戦国武将・後藤又兵衛は、地元の有力領主・宇都宮家に対する主君・黒田長政の取り扱いに反発し、家臣らと共に出奔する。62分。
感想
戦国武将・後藤又兵衛が、黒田家を出奔するあたりから大阪冬の陣に向かうまでの様子が描かれる。又兵衛を演じる市川右太衛門は、最初は面白い顔の人だなくらいの印象しかなかったが、物語が進むにつれて次第に惹きつけられていく。
目が大きく、くっきりとした顔立ちの彼は自然と目を引く。時代劇スターは顔のデカさが重要だったなどと聞くが、それが実感できた。映像の中でとても見栄えがして、存在感がある。北大路欣也は彼の息子だそうだが、言われてみるとよく似ている。
そんな彼が演じる後藤又兵衛は、豪快な性格だ。戦に負けてもよくある事だとカラカラと笑い、主君の命令も気に入らなければ頑として断る。見ていて気持ちの良いキャラクターだ。主君のもとを去った彼を、元の家来たちが次々と追いかけてくるのもよく分かる。
家来たちが俺も連れて行けと詰めかけるこのシーンは、微笑ましくて思わず笑ってしまったが、演出的には時代を感じるものだった。今なら悠長にいちいち一人ずつ描かないだろう。だがそれ以外は、古い映画にありがちなかったるさを感じてしまうようなシーンはなかった。それどころか、馬を走らせるシーンなどは今でも通用しそうなほどの迫力があった。これはCGに頼らず、実際に人海戦術で撮るからこそ出る迫力なのかもしれない。
主君を持たない武将が諸国を彷徨う感じはあまりなかったが、苦境を苦境とも思わない主人公のキャラクターは十分に堪能できた。同情を寄せていた宇都宮家の生き残りたちとの胸が熱くなるようなやり取りもある。
それから豪傑と言われているのに、戦場での戦闘シーンが一切ないのもよく考えるとすごい。諸事情で公開が遅れたようで、しかも62分しかないので、もしかしたら本当は戦場のシーンも加えるつもりだったのかなと想像してしまうが、この上映時間の短さのおかげもあって、気軽に楽しめる娯楽映画となっている。
スタッフ/キャスト
監督 松田定次
脚本 八尋不二
出演 市川右太衛門/月形龍之介/羅門光三郎/香川良介 /藤野秀夫
*澤村マサヒコ名義
登場する人物
後藤又兵衛(後藤基次)/宇都宮鎮房(城井鎮房)/黒田甲斐守長政(黒田長政)/徳川家康