★★★★☆
あらすじ
学内での評判を気にして匿名で小説を書く文学部教授は、大学という独特で特殊な世界の中で、なんとか無難に生きようとしていた。
感想
大学の内情を描く物語だ。実務的な話から派閥争いや教授になるための根回し等のきな臭い話まで、外からだと分からない実情が大げさに描かれていて面白い。しかし、実績作りの本を出したり、推薦してもらうために接待したりと、教授になるには何かと金がかかるのは驚きだった。
主人公は学内での立場が危うくなるのを危惧して、こっそりと匿名で小説を書いている。彼が出版社の編集者に必死に説明していたが、メディアで活躍しても学内では一切評価されないどころか、逆に認められなくなるそうだ。教授たちがマスコミを低俗だと見下し、その気になれば評価される小説なんていくらでも書ける、などと言い放つ姿には、強烈なエリート意識が漂っている。
そのくせ、いざ自分の文章が新聞に載ると大喜びでコピーして配ったりするのだから可笑しい。本当は羨ましいが、それを隠すために「大学教授がそんな軽薄なことをするべきではない」というポーズをとるのだろう。
大学の内幕と同時に描かれるのが、主人公の文学理論の講義だ。「印象批評」から「ポスト構造主義」まで、多様な理論が紹介される。難解な部分もあり、すべてを理解したとは言えないが、面白くてタメになる。
そして、大体の理論が最終的にはイデオロギー的になる、という説明は印象深い。いくら科学的に客観的に分析しようとしても、最後の最後には自分の価値観が出てしまうものなのかもしれない。SNSのおかげでヤバい大学教授がたくさんいることが可視化されている現在では、妙に納得してしまう話だ。
子どものようにわがままで自己愛が強く、嫉妬深くて陰険な教授たちのドタバタ劇は笑えるとともに、日本の未来を考えると不安にもなる。教授になるためには金やコネが必要で、マスコミに出ただけでバカにされるのは、ちゃんとした学者としての実績評価が出来ないからだろう。だからそれらの基準で評価し、昇進を決めている。そんな大学を卒業した多くの人間が社会の重要なポジションに付いていくわけだから、決して良い流れではないだろう。
そのせいなのか今では日本全体が貧しくなり、大学予算もかなり減らされている。きっと35年前のこの小説の頃とは、学内の様子はずいぶんと変わったはずだ。現在はどうなっているのかと気になってしまう。また、文学理論のその後の変遷も知りたい。知的好奇心を大いに刺激してくれる小説だ。
国の未来のため大学予算増額を 国大協「もう限界」と訴え 研究者育たず学術は崩壊【声明全文】 | 長周新聞
著者
筒井康隆
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