★★★☆☆
あらすじ
再婚した女は、快く思われていない義理の両親との関係を改善しようと、息子のお祝いを口実に自宅に招く。
木村文乃、永山絢斗ら出演、深田晃司監督。矢野顕子の同名の楽曲をモチーフにした作品。123分。
感想
子持ちで再婚した女性が主人公だ。自分のことを快く思っていない義父らを招いて開いたパーティーで悲劇が起きる。義父との関係に改善の兆しが見え始めた矢先にそんなことが起きるなんて、人生のままならなさや皮肉を感じる。
家族の中で息子と血のつながりがあるのは主人公だけ、というのは何とも微妙な関係だ。だからといって夫や義理の両親があからさまな態度を取るわけではないが、ふとそれが垣間見えてしまう瞬間はある。
しかし、それはある意味で仕方がないことだ。主人公もそれを理解した上でことさらに騒ぎ立てることはない。悲しみが足りないように見えるのは血がつながっていないからだ、などとせんないことで夫を責めたりもしない。そういうことを飲み込んだ上で、世界は成り立っている。
そんな中で、主人公の元夫の登場は鮮烈だった。物語と主人公の心に波風を立てる。誰もが悟ったように振る舞う世の中だと、心に澱が溜まる一方だ。時には素直に泣いたり叫んだりすることも必要なのかもしれない。賢くなればなるほど幸せを感じにくくなるのは、そのせいもあるのだろう。
このエピソードは、日常の中のひとつの光景としてそのまま流れ去っていくだけかと思っていたら、その後は元夫の存在感がどんどんと大きくなっていく。特異ではない腰の低い普通のキャラなのだが、彼の過去が明らかになるにつれ、「いったい何者?」とどんどんと気になってくる。
主人公も久々に再会して、彼への思いがぶり返したのだろう。自分がいないとダメだと彼を気にかけるようになる。だが彼のそばにいると、彼が決して一人ではないことに気付く。そして愛とは、必ずしもそばにいることではないと悟る。愛し方は一つではなく、色んな愛し方があっていい。それは息子にも義理の両親にも、そして夫に対しても言えることだ。
何度も映し出されるベランダに吊るされたコンパクトディスクは、外部からの鳥(他者)の侵入を防ぐためのものだ。しかし、キラキラと光り、他者に自分の存在に気付いて欲しいとアピールしているようでもある。まるで「放っておいて欲しいけど、気付いても欲しい」と叫ぶ、矛盾に満ちた人間の心みたいだ。そのくせ、自分の心とはちゃんと向き合えていなかったりする。
ストーリーに、ホームレスや在日朝鮮人、障碍者や生活保護、宗教など、社会の諸相を詰め込み過ぎな気がするが、これらはどこか遠くの自分の知らないところではなく、実は案外とどこにでもまんべんなく存在しているものであることを示しているのかもしれない。いつも近くにいるのに目を見て話さない夫のように、見ようとしていないだけだ。
団地的な集合住宅に住んでいるのに、ご近所さんがまったく登場しないのも気になったが、これもまた、近くにいるのに存在しないかのように振る舞う世の中を暗示しているのだろう。ゼロか全部かの関わり方、愛し方だけでなく、その中間もあることを知れば、もっと人生は豊かになり、世の中は良くなるのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/編集 深田晃司
出演 木村文乃/永山絢斗/砂田アトム/山崎紘菜/嶋田鉄太/三戸なつめ/神野三鈴/田口トモロヲ/森崎ウィン(声)
音楽 オリビエ・グワナー
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