★★★★☆
あらすじ
ボクシングが大好きだが連敗続きのボクサーと、その周囲のボクシングに関わる人たち。
感想
主人公は誰よりもボクシングを愛しているが、全然勝てないボクサーだ。情熱があっても才能がなければ勝てないという残酷な現実を突きつけられている。
時には基本を指導する若手に陰口を叩かれ、面と向かって馬鹿にされたりもするが、それでも主人公は卑屈になるでも開き直って居丈高になるでもなく、素直に現実を受け入れた上で黙々と練習に励んでいる。その自然体の姿には、人間としての強さが感じられてカッコいい。そんな人間的魅力あふれる主人公を、松山ケンイチが雰囲気たっぷりに演じていて素晴らしい。
主人公の他に、才能がありながらもボクサー脳で脳機能の低下が深刻な後輩、主人公の幼なじみで後輩の恋人の女性、モテたいとジムに入会してきた初心者など、ボクシングに関わる人物たちがたくさん登場する。そこで描かれているのは、ボクシングというスポーツの魅力に憑りつかれてしまった男たちの姿と、それを不思議そうにながめる女性の姿だ。
特に意中の女性の気を引きたいがために、ボクシングをやってる風の感じをちょっと身に付けたいだけ、とやって来た柄本時生演じるよこしまな男などは、気が付けば半年もジムに通ってしまっており、その時点ですでにボクシングの魅力にハマってしまっていると言っていいだろう。なにがそこまで人を惹きつけるのか、本当にボクシングは不思議なスポーツだ。
屈託ないように見えた主人公が、チャンピオンになった後輩に本心を吐露した終盤のシーンはドキドキする。だが同時に、彼だって人並みに嫉妬や悔しさを抱えていることが分かって少しホッとする。自分より才能があり、幼なじみの女性を手に入れた後輩に対する複雑な思いはあるが、それらすべてをボクシングに対する愛が凌駕してしまっているということなのだろう。
連敗続きでカッコ悪いはずなのに、なぜかカッコいいボクサーの姿が描かれる。「ローキー」とは真逆とも言えるボクシング映画だ。ラストシーンになるまで主人公がどんな仕事をしているかすら分からないくらい、全編ボクシングに溢れており、どっぷりとボクシングの世界に浸れる。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 𠮷田恵輔
出演
木村文乃/柄本時生/東出昌大/竹原ピストル/よこやまよしひろ