★★★★☆
あらすじ
全体主義国家となったイギリスが舞台。ガイ・フォークス・マスクをした謎の男「V」に助けられた女性は、彼が一人で行う反政府活動に巻き込まれていく。
感想
ナタリー・ポートマン演じる主人公を通して、謎のマスク男「V」の暗躍が描かれていく。原作はDCコミックスのようだが、あまり「V」はアメコミらしいヒーロー感はない。困っている人のために戦っているのではなく、復讐のために戦う男だ。復讐の相手がたまたま政府の中心人物たちだったから、彼らの困る事をしようとすると結果的に反政府活動になるだけだ。基本的には自身が自由に楽しく生きられればそれでいいと考えているように見える。
舞台となるのは全体主義国家となったイギリスが舞台。政府が各家庭の盗聴・監視を行い、メディアを使って情報操作をしている。まるでナチスドイツのよう(これを口にするのも駄目だと思っている人がいるらしいことを最近知った)。政府にとって不都合な情報や「V」による破壊活動を政府がどんな風に誤魔化そうとするのかが描かれていて面白いし、それを「絶対嘘だ」と半笑いで見ている茶の間の様子もなんだかリアルだった。きっとディストピア社会が訪れたとしても人々は絶望なんてしないで、こんな風にあきらめつつどこか自嘲気味にへらへらと生きていくような気がする。しかし、こういう映画が作られるという事は、どこの国の人たちも自国が独裁国家や全体主義国家になるかもしれないといつも危惧しているという事なのだろう。そんな危機感を持ち、そうならないように常に検証し警戒するのは健全な事だ。
映画はまるで全体主義国家の倒し方のマニュアルのようになっていて興味深い。反政府活動の存在を知らせ、さらに国民に呼びかけることで不満を持っているのは自分一人ではなく、諦めて生きるだけが選択肢じゃないことに気づかせる。そして、シンボルマークの落書きや仮面で同じ思いの同志がすぐ近くにいることを示唆して勇気づけ、連帯の機運を高めて大きなうねりを生み出していく。万が一の時のために心に留めておきたい内容だが、先に国家中枢の人間を倒しておく、というめちゃくちゃ難易度の高いタスクがあるのが難点だ。このタスクをこなすことが出来ないと、今現在も世界各地の民衆運動の場で行われているように、政府の武力弾圧によって制圧されてしまう可能性が高い。
途中で様々な匂わせはあるが、「V」が元々どんな人物だったのか、最後まで詳細は明らかにされないまま映画は終わる。主人公が言っていたように、それが誰かは重要じゃないという事なのだろう。圧倒的な力を持つ「V」のような人物なんて現実に現れることはないので、それぞれの中にいる「V」を奮い立たせ、皆で立ち向かうことが大事だ。「V」のマスクがもっとカッコよかったら良いのにと思わなくもないが、それもまた同じで、必要なのはカッコいい一人のヒーローじゃなく、ひとりひとりのちょっとした勇気だ、という事なのだろう。最終的には大衆が主人公になる熱い展開の映画だった。
それから映画ではあまり説明されないが、冒頭に軽く紹介される物語のネタとなった記念日「ガイ・フォークス・ナイト」は、調べると時代と共にその趣旨が変わっていったようでなかなか興味深かった。あと関係ないが、ナタリー・ポートマンは坊主になっても美しい。というよりも美人だからどんな髪型にしようが美しいのか。
スタッフ/キャスト
監督 ジェームズ・マクティーグ
脚本/製作 ラナ・ウォシャウスキー/リリー・ウォシャウスキー
原作 V フォー・ヴェンデッタ
出演 ナタリー・ポートマン/ヒューゴ・ウィーヴィング/スティーヴン・レイ/ジョン・ハート
音楽 ダリオ・マリアネッリ
Vフォー・ヴェンデッタ 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!
登場する作品
「巌窟王(The Count of Monte Cristo)」(1934) 監督 ローランド・リー
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