★★★☆☆
あらすじ
かつて仕えた家の若旦那の元に身を寄せていた老侠客、吉良常は、追手から逃げる侠客、飛車角を一時的に匿い、それが縁で二人は交流を持つようになる。109分。
感想
侠客・飛車角と老侠客・吉良常、二人の男の生き様と友情が描かれる。しかし「飛車角」「吉良常(きらつね)」とすごい名前だ。タイトルを見てもまさか人の名前とは思わなかった。何度も映画化されるぐらい人気の原作小説が元になっているので、当時の人は分かっていたのだろうが。
仁侠映画ではあるが、抗争は詳細に描かれず、藤純子演じる女をめぐる人間ドラマがメインで展開される。飛車角は女と駆け落ちしようとしていたのだが、刑務所に入ってしまったことでその恋路はこじれることになる。
だが、助っ人で参加した抗争で人を殺めた時はまったく気にしていなかったのに、その後に起こした殺人ではすぐに自首することを決めていたのはよく分からなかった。抗争の後始末は組がするが、彼が起こした事件は自分でケリをつけなければ他に迷惑がかかるから、ということだろうか。
飛車角と女の間に割って入るのは、高倉演じる男だ。組の恩人である飛車角の女だとは知らなかったので仕方がない部分はあった。だが、その事実を知ってもスッと身を引かず、俺の女だと主張する彼の姿はなかなか新鮮だった。それでもちゃんと仁義は通そうとするのだが、理由も告げずに切断した自分の小指を渡そうとしても、相手は困るだけだろう。意味が分からないし、小指なんていらないしでパニックに陥りそうだ。不器用すぎる。
随所に現れて渋い働きをする吉良常には惹かれるが、女が都合よく二人の男の前に現れるのはさすがに出来過ぎだった。ストーリーにもあまりピンと来るものはなかったのだが、定番の敵地に単身乗り込む最後のシーンは躍動感があって見応えがあった。そこだけモノクロとなって、実録物のような現実味が感じられるものとなっている。
クライマックスは飛車角が一人で敵をなぎ倒していくカタルシスがあったが、実際はその前の高倉健演じる男のように無残に返り討ちされるのが本当のところだろう。それをさらっと見せているのも、現実を知らしめているようで好感が持てる。
スタッフ/キャスト
監督 内田吐夢
原作 人生劇場 残侠篇(全)
出演 鶴田浩二/若山富三郎/藤純子/松方弘樹/左幸子/辰巳柳太郎