★★★★☆
あらすじ
ル・マン参戦を決めたフォードに協力を求められた元レーサーの男は、クセの強いレーサーと共に王者フェラーリに挑む。
アカデミー賞編集賞。153分。
感想
フォードとフェラーリのライバル関係を描く物語かと思っていたが、フェラーリに挑むフォードの男たちの物語だった。フェラーリ側は創業者エンツォ・フェラーリがシンボル的に登場するだけで、レーサーたちすらしっかりと描かれない。
モータースポーツは関わる人が多く、すべての人を登場させていたら混乱してしまうので思い切った省略をしたのだろう。フォード側もクリスチャン・ベール演じるレーサー、ケン・マイルズ以外のレーサーはほぼ登場しない。登場人物が簡素化されたことで、スッキリと分かりやすい物語になっている。この人誰だっけ?とはならず、物語に集中できる。
ベビーブーマー世代にブランド価値を示すため、フォードはル・マン参戦を決める。だが早速マシンづくりを始めるのではなく、まずは王者のフェラーリを買収しようとしたのは興味深い。手っ取り早く、金で買えるものなら買ってしまえという考え方は、いかにも資本主義的だ。だが買収に失敗したことで、フェラーリに対する対抗心を燃え上がらせることになる。
フォードのマシン開発を任されたのは、ル・マン優勝経験もある元レーサーの男だ。彼は優秀だがクセの強い英国人レーサーと二人三脚でミッションに挑む。巨大企業フォードの厄介な組織と、扱いづらいレーサーの両方を、彼が上手く操る姿には感心してしまった。さすが元レーサーだ。なかでも勝利を逃した最初の年、翌年以降の挑戦を続けるかどうかで迷うCEOのヘンリー・フォード二世に対して、強気の姿勢で説得したシーンには痺れた。
そして、フェラーリ創設者の車づくりにおける強烈なプライドや、レーシングカーに試乗したフォードCEOが祖父の創業者ヘンリー・フォードにも体験してもらいたかったと泣くシーンなど、両企業トップの車に対する想いが垣間見えるのも良い。
その他、強がっているが陰で人並みに落ち込むレーサーや、そんな夫を信じて懐深く見守る妻など、この物語は各登場人物の人間ドラマをピンポイントで上手く描いている。
クライマックスのル・マンでは、現場や上層部、フェラーリ側の様子などが交互に切り替わりながら描かれていく。レースだけでなく、あちこちに視線をやる元レーサーの姿に、一筋縄ではいかないレースの難しさが伝わってくる。そんな緊迫した中で彼が仕掛けるちょっとしたいたずらには心が和んだ。
ドラマチック過ぎないレース映像は、スピード感を感じられる堅実なものに仕上がっている。安心して見ていられた。
元レーサーとレーサーの絆を描いた物語だ。クセの強いレーサーが、皆に受けれられるように努力していれば多くの問題は起きなかった気がしないでもないが、そんなに簡単に性格を変えることは出来ないので仕方がない。それぞれの気持ちの強さと相手への信頼が感じられる良いコンビだ。それだけに寂しさを感じてしまう結末だった。
スタッフ/キャスト
監督/製作 ジェームズ・マンゴールド
製作総指揮 ダニ・バーンフェルド/ケヴィン・ハロラン/マイケル・マン/アダム・ソムナー
出演 マット・デイモン/クリスチャン・ベール/ジョン・バーンサル/カトリーナ・バルフ/トレイシー・レッツ/ジョシュ・ルーカス/ノア・ジュープ/レイ・マッキノン/JJ・フィールド/ベン・コリンズ/ウォレス・ランガム
音楽 マルコ・ベルトラミ/バック・サンダース
編集 アンドリュー・バックランド/マイケル・マカスカー
登場する作品
キャロル・シェルビー/ケン・マイルズ/リー・アイアコッカ/ヘンリー・フォード2世/エンツォ・フェラーリ/ジャンニ・アニェッリ/ブルース・マクラーレン/デニス・ハルム/ロレンツォ・バンディーニ/ダン・ガーニー