★★★★☆
内容
アフリカや南米、東南アジアの秘境に潜入するため、現地の言語を習得してきた著者による言語学習の軌跡。
感想
必要に迫られ、様々な言語を学習してきた著者の歴史が紹介されていく。しかし英語やフランス語のメジャー言語ならともかく、少数民族が使う言語まで習得しようとする著者の貪欲さはすごい。だがそれもこれも現地の人と直接コミュニケーショしたいという願望があったからだ。
言語(外国語)は「話したいことがあると話せる」のである。
p204
結局、語学が身に付くかどうかはこれにかかっているのだろう。日本人が日本語を使えるのは、それが使えないと日本では伝えたいことが伝えられないからだ。言葉は手段であって目的ではない。明確な目的もなく、話せたらなんかカッコいいから、みたいなふわっとした動機で学んでも習得できないのはそのためだ。
日常会話で文法は気にする必要はないとか、互いに理解しようと歩み寄る姿勢が大事だとか、その言語特有のノリを取り入れなければならないとか、著者が言語を学び実践してきた中で得た気づきは、どれも大いに肯かされるものばかりだった。
現地の言葉を喋ると、現地の人に受け入れられやすくなるなどメリットはたくさんあるが、逆にデメリットもあるとする解説は興味深かった。中でも現地の人に舐められがちになる、というのは痛感する。日本でも外国人に英語で話しかけられるとオドオドするくせに、拙い日本語だと急に横柄な態度になる人は割といる。
言語には「うまく話せる人の方が優位に立てる」という理不尽な法則がある。私はこれを「言語内序列」と呼んでいる。
p87
人間は言葉の習熟具合で相手を判断する習性があるのだろう。たどたどしい日本語を話し朴訥に見えた留学生も、母国語で流暢に喋ると途端にスマートな印象に変わったりする。日本人が海外で侮られたり、まるで居ないかのように扱われてしまいがちなのも同じ理由で、言葉の壁が影響しているのかもしれない。
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各大陸の様々な言語の話の中で、一番関心を持ったのはスペイン語だ。超メジャーな言語ではあるが、あまりローカライズなどの改良をされることなく世界で流通しているらしい。今はどうなのか分からないが、スペイン語話者はフラットな反応を示すというのも不思議だ。そして、南米文学のマジック・リアリズムは、スペイン語の影響があるのではないかという説には妙に説得力があった。
言語を習得する必要に迫られた時に読むと非常にモチベーションが上がりそうな本だ。著者が実践した勉強方法もとても参考になる。また言語の話題を中心とした現地でのエピソードも面白く、出版されているそれぞれの体験記もいろいろ読んでみたくなった。
著者
高野秀行
登場する作品