★★★☆☆
あらすじ
人々の視覚情報などまで保存・管理され、事件が起きてもすぐに解決する監視社会。しかし、当局に情報がなく関知できない匿名の女が関わる連続殺人事件が起き、刑事が真相を追う。
感想
とても物静かで落ち着いた雰囲気の映画。そう聞くと眠くなりそうな映画なのかと思ってしまうかもしれないが、ビンテージカーやミッドセンチュリー家具など洒落た小道具や大道具・セット等が登場し、映像も美しく惹きこまれてしまう。音楽も良く、センスの良さが感じられる映画だ。後で調べたら「ガタカ」を撮った監督だった。
自分が見ているもの、いわゆるPOV視点の映像は、記録、保存されて当局に監視されている社会。そして目に映るものすべてに関する情報が同時に表示され、ものの名前や相手の年齢・経歴などが瞬時に分かるようになっている。さらには動画を見たりメッセージの送受信も出来たりして、目が一種のモニタースクリーンのようになっている。なかなか興味深い装置で便利そうだが、常に歩きスマホをしているみたいで煩わしそうでもある。
ミーティングで同じ映像をそれぞれ目のスクリーンで確認しているときは、傍から見ると虚空を見つめる痴呆の集団のようでもあり、ちょっと面白かった。この社会では、ただボーッとしていても熱心に仕事をしていると勘違いしてくれるのかもしれない。振り返ってみると、この映画では目の中にディスプレイがあるので普通のディスプレイはまったく登場しておらず、ちゃんとした世界観で徹底しているなと感心した。
クライヴ・オーウェン演じる刑事が、殺人事件に関与したと思われるが当局のデータベースに全く記録のない謎の女を追う物語。しかしおとり捜査のためとはいえ、刑事は売春したりドラッグをやったりとなかなかのやりたい放題だ。倫理観はどうした?と言いたくなるが、プライバシーを失くしてしまった監視社会の人間なので、どこかで感覚が麻痺してしまっているということなのかもしれない。刑事が少しずつ謎の女と距離を詰めていく過程は悪くなかった。
ただラストで事件の真相がついに明らかになった時は、あさっての方向から急に別の話がやって来たような感じで呆気にとられてしまった。そもそも犯人がちゃんと仕事をした後に依頼者を殺すのが不可解だったが、これだったらなぜわざわざ殺す必要があったのか?もっとやりようがあったのでは?などと疑問が湧いてきて、ますますよく分からなくなってしまった。
そして監視社会に対する刑事の「知られて困る事なんてないし、それで安全な社会になる」という言葉と、謎の女の「知られて困る事なんてないが、だからといってわざわざ教えたくない」という言葉は、プライバシーに関する議論では定番の対立する意見で、凡庸すぎてちょっとがっかりした。そして正直に告白すると、中盤で若干眠たくなる瞬間もあった。
この映画は未来のディストピア社会を描いているのに、妙にタバコを吸うシーンが多くて気になったが、あれは記憶や記録なんてタバコの煙のようにあやふやなものだという暗喩なのだろう。記録や記憶を頼りにすれば間違いないと思い込んでいるようだが、そんなの簡単に書き換えられたり消したりできちゃうものなんだよ、一旦体内に取り込んだその記録や記憶も、吐き出したときには刻々と変化してしまっているかもしれないよと警告しているかのようだった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 アンドリュー・ニコル
出演 クライヴ・オーウェン/アマンダ・サイフリッド/コルム・フィオール/ソーニャ・ヴァルゲル
音楽 クリストフ・ベック
撮影 アミール・モクリ
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