★★★☆☆
あらすじ
北海道のとある町で暮らす人々の姿。佐藤泰志の小説を原作とする函館3部作の最初の作品。152分。
感想
主人公が変わりつつ、いくつかの物語がオムニバス作品のように順番に描かれていく。それぞれわかりやすい起承転結があるわけでなく、年明けまでの短い期間の各主人公たちの日常が切り取られている。登場人物たちの人生がなんとなく緩く交錯しながら進んでいく映画で、まさに「叙景」といった趣がある。
そんな物語の中では、加瀬亮演じる父親の小さなガス会社を継いだ社長の話が印象に残った。主人公は、父親の影響がまだ色濃く残る会社で何とか自分の存在感を発揮しようと焦る男だ。新たな事業を始めるが思うようにいかず、その苛立ちから社員や妻に当たり散らしている。しかし、彼が妻を殴る時の手加減なしの全力ぶりはすごかった。拳の振りかぶり方からして勢いがあった。そして殴られた妻は、言う事を聞かない義理の息子を殴りつける。こうやって暴力は暴力を生み連鎖していく。弱い者がさらに弱い者をターゲットにするというのがやるせない。
そんな傍若無人な振る舞いをする男だが、会社の古株の女性には敬語を使って一目置いているのが興味深い。世の中には国会議員から町の小さな会社まで世襲で跡を継いだ男で溢れているが、彼らの傍には必ず彼女たちのような存在がある。男たちが偉そうな顔をしていられるのも、幼稚な行いをしながらも地位を保っていられるのも、彼女たちの助けがあってこそだろう。世襲の彼らがいなくなったところで誰も困らないが、彼女たちがいなくなってしまったら、きっと日本は機能不全に陥り、大パニックを引き起こすような気がする。
その他では、市からの立ち退き要請を拒み続ける猫と暮らすおばあさんの話も良かった。彼女の地響きのするような低い声は迫力があったが、彼女のような人を町で見かけたとしても特に気にしないどころか、視界にも入らないかもしれない。だけどそんな彼女にも若かりし頃があり、長い人生の中で生まれたたくさんの思い出を抱えている。街はこんな人たちの様々な人生や思い出の光景が積み重なって出来ている。
衰退期を迎えつつある街の話なので、基本的には暗く重い話ばかりが続き、上映時間が長いこともあって若干しんどい部分はあった。町の何気ない風景の中に潜む人々のドラマが浮かび上がり、その詳細を見ていると段々としみじみとした気分になってきた。それから、そのうち日本全体がこんな風に寂れていき、重苦しく暗い話ばかりになってしまわないだろうかと、そんな危惧も心の片隅に浮かんだ。
スタッフ/キャスト
監督 熊切和嘉
出演 谷村美月/竹原ピストル/三浦誠己/山中崇/南果歩/小林薫/渡辺真起子(声)/小山燿/大森立嗣/あがた森魚/伊藤裕子/村上淳
音楽 ジム・オルーク
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