★★★★☆
あらすじ
地域初の黒人警官となった男は、ユダヤ人の同僚と組んで白人至上主義団体のクー・クラックス・クラン(KKK)に潜入捜査を行う。
事実を基にした作品。アカデミー賞脚色賞。原題は「BlacKkKlansman」。
感想
黒人警官の主人公がKKKに潜入捜査する物語だ。黒人が白人至上主義の団体に行けば当然バレてしまうので、主人公は電話でのやり取りのみ担当し、直接接触するのは代役となる同僚のユダヤ人警官が行なう。つまり二人で一役をやるわけで、情報共有などの連携をミスすればすぐに怪しまれてしまう危険な任務だ。
主人公が発案したからこの形になったのだが、そもそもこれまで何故一人でこれをやろうとする白人警官がいなかったのか?という疑問も浮かぶ。この映画にはそんな人々が漫然と見過ごしているかもしれない偏見や差別に対して、変だよねと密かに問うようなシーンがあちこちに潜んでいる。
主人公らはグイグイと団体に食い込んでいく。あまり詳しいことは知らなかったのだが、この団体は思っていたほど過激ではなく、むしろ穏健にやろうとしていたのは意外だった。中央の指導者の語り口もソフトだ。過激なことばかりやっていたら、賛同者でも付いて行けずに離れていってしまうので当然といえば当然なのかもしれない。
だがこんな風にそこまで悪い人たちではなさそうだと思わせてしまうところが、最も厄介で危険なところなのだろう。あまり深く考えていない無意識な差別感情を持つ人たちを多く引き付けてしまう。
とはいえ、どんな組織にも過激派はいる。そんな過激派の一人が、潜入している主人公の同僚に対して、執拗にユダヤ人ではないのかと疑っていたのは印象に残った。どうして見ても判断できないようなことを気にするのだ?と滑稽さすら覚えてしまった。
だがよく考えてみれば、日本にもごくわずかだが相手が日本国籍かどうかを異常に気にする人たちがいるみたいなので同じようなものか。こういう傾向を持つ人たちは、世界中で似たようなことをしているのだろう。こんなちっちゃなことにこだわらなければ自我が保てない。逆にしつこく問いただされた同僚は、それまでさして気にしていなかったのに、ユダヤ人であることに自覚的になっていく。
主人公が電話でKKKの幹部に気に入られていく様子は面白かった。外見で人を判断することの無意味さと、それが出来ると思い込んでいる彼らの荒唐無稽さを炙り出している。
クライマックスは、過激派たちの実行計画を阻止する場面だ。胸がすくとは言ってはいけないのだろうが、皮肉な結末が待っている。結果としては一件落着だ。だが相手が自滅しただけで、主人公らは活躍できなかったどころ邪魔されており、ここでも様々な問題が影を落としている。銃を構えて終わる主人公らのラストシーンは、まだ戦いが続くことを暗示している。
その後に流れる現実世界のドキュメンタリー映像は、この戦いが終わるどころか、むしろ悪化しているかもしれないことを見せつけられて、暗澹たる気持ちになる。とりあえず、まともでないリーダーは世の中を簡単に駄目にしてしまうので避けたいところだ。国民がそんな奴を大統領に選ぶわけがないと主張した主人公が、楽観的だなと呆れられていた中盤のシーンが後味悪く思い出される。
コミカルな雰囲気で軽快さを感じさせながらも、深くエグってくる映画だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 スパイク・リー
脚本 デヴィッド・ラビノウィッツ/ケヴィン・ウィルモット/チャーリー・ワクテル
原作 ブラック・クランズマン
製作 ジョーダン・ピール/ショーン・レディック/ショーン・マッキトリック/レイモンド・マンスフィールド
出演 ジョン・デヴィッド・ワシントン/アダム・ドライバー/ローラ・ハリアー/トファー・グレイス
音楽 テレンス・ブランチャード
編集 バリー・アレクサンダー・ブラウン
登場する作品
登場する人物
ロン・ストールワース/デビッド・デューク/クワメ・トゥーレ