★★★★☆
あらすじ
死後、名前や過去を偽っていたことが判明した夫が何者だったのか、妻に調査を依頼された弁護士の男。
感想
別人に成りすまして結婚し、子どもが生まれるも事故で死んでしまった男の正体を探るミステリーだ。一周忌に一応連絡したところ、それまで接触のなかった男の兄がやって来て、そこで遺影を見て初めて別人だったと判明するシーンが面白かった。
妻も兄もそんなことがあるなんて思ってもいないので、両者が互いに「え?」みたいな反応をしている。特に妻が、感じの悪かった初対面の義兄に対して、「何言ってんだこいつ?」みたいな反感を顔に出してしまっているのが良かった。
驚きの事実が明るみになった後、では他人の名前を勝手に騙っていたこの夫、「ある男」とは誰なのだ?となるのは当然で、その調査を依頼されたのが弁護士の主人公だ。まずは「ある男」が名乗っていた名前の元々の持ち主の調査から始めて、徐々に「ある男」の正体に近づいていく。その過程で分かってくるのは、別人になろうとする者たちそれぞれぞれの事情だ。乗っ取りなどの犯罪の場合もあるが、知られたくない過去や出自を隠すための場合もある。
そして、それを調査する主人公自身にも帰化した在日朝鮮人だという事情がある。これが彼をこの調査にのめり込ませている。彼自身、元々は気にしていなかったのかもしれないが、ナチュラルに偏見をさらけ出す人たちにたくさん遭遇する以上は気にせざるを得なくなる。なんせ与党の国会議員がヘイトをまき散らして平然としている国だ。差別や偏見が横行するのも当然だ。
「ある男」は、自分ではどうすることも出来ない出自の問題に苦しんでいたことが明らかになる。そして、名前を変えて結婚し、子どもが生まれてついに幸せを掴んだことも。彼の半生を見つめていたら、苦しいのなら他人の人生を借りて別人になったっていいじゃないかと思えてくる。
考えてみれば誰だって、自分の出自や半生を何もかも親しい人に打ち明けているわけではない。今回の場合は手続き上の問題があったので仕方がなかったが、妻が言っていたように、わざわざ自分の知らない相手の過去など調べる必要などないのだろう。重要なのは今で、自分との関係が実際にどうだったかだけだ。それだけは間違いのない確実なもので、それだけを信じていればいい。
単なる人探しのミステリーで終わらない深みのある物語になっている。更なる事情を抱えた主人公が、束の間の別人になろうとするラストもキマっている。
スタッフ/キャスト
監督/編集 石川慶
原作
出演
安藤サクラ/窪田正孝/清野菜名/眞島秀和/仲野太賀/真木よう子/小籔千豊/坂元愛登/山口美也子/河合優実/でんでん/芹澤興人/モロ師岡/池上季実子