★★★☆☆
内容
世界の地域によって人々の考え方が違うのは何故なのか。文化心理学者による文化と心の関係が解説される。
感想
地域によって人々の考え方がなぜ違うのかを、文化心理学の観点から解説する。気候や地理的条件といった様々な要件が生活スタイルを決定し、それに適した考え方をするようになるという説明は、すんなりと腑に落ちる。
狩猟生活をしていれば、単独で大物を狩ってくるようなヒーロー的存在は皆にとってありがたいが、農耕生活においては、協調できない者として迷惑がられる。両集団の考え方が異なるのは当然だ。
このような変化は遺伝子レベルでも見られる。酪農地域では牛乳を飲むため、母乳を飲まなくなれば不要となる乳糖耐性が消えない遺伝子を持つ者が多く、農耕地域では酒ばかり飲んで真面目に働かない者は敬遠されるからか、アルコール耐性が弱い者が多いなど、地域的な特性があるのは面白い。これらが文化を作り、またそれを促進することにも作用している。
ただ、その文化に適していない遺伝子を持つ者が淘汰されていない点は注目すべきだろう。今は狩猟生活をしている地域がほぼないように、文化は少しずつ変化していく。その時に、異なる遺伝子を持つ者の出番がやってくる。皆が同じであることを誇る地域などは滅んでしまうわけで、進化や発展において多様性がいかに大事か、よく分かる。
欧米、アジア、アフリカなど、研究の結果明らかになった各地域の特性が紹介される。中東地域の人々のメンタリティが、昔の日本の侍とよく似ているという結果は、意外なような、納得できるような不思議な気がした。人口の数パーセントでしかなかった侍のメンタリティを日本人のメンタリティとするのは無理があり、単なる後付けのファンタジーみたいなものだが、「サムライ魂」を持つと自負する人たちは、中東の人たちとうまくやれるのだなと安心した。
この研究で興味深かったのは、特性を調べるアンケートに同じ回答をしたとしても、地域によって別の意味を持つものがあるということだ。他人に親切をする行為も、集団の利益のためと捉える地域もあれば、個人の利益のためと考える地域もある。だから、その回答の背後にあるものまでしっかりと考慮しないと、データを読み違えることになる。
そんな落とし穴の最大のものが、これまで学問の世界が囚われてきた西洋的なものの見方だろう。その観点から優劣や成否を判断してきた。しかし、世界中を見てみれば、むしろ欧米の方が異常らしい。
ここにあっては「基本感情」の普遍性への信念の強さは、もはや「宗教的」ですらある。これに疑問を投げかけるとしたら、「非科学的」というそしりを免れない。
pⅲ
後発的なこの地域は、先進的な他の地域の特性を取り入れて発展してきた。しかも、協調性を示すものを独立性と、集団主義的な考えを個人主義的なものとして、自分たちに都合の良いように解釈して取り込んだ。理不尽な気もするが、寿司が世界各地で姿を変えて作られているように、これもまた地域の条件に適合するように変化したということなのだろう。
何を考えているか分からないと思ってしまうような人でも、その背後にある考え方を知れば、同意はできなくても理解できるようになることはある。それを国レベル、地域レベルまで広げれば、世界中の人とうまく付き合っていけるようになるのだろう。地域同士にはつながりがあり、互いのメンタリティが共通する部分もある。ただ、「人類皆兄弟」のスローガンと同じで、分かっていてもなかなかうまくやれないのが問題だ。
人の心を探りながら、その背後にある歴史や文化も調査する文化心理学は、面白そうではあるが、なかなか大変そうだ。そして、本書でも何度も釘を刺していたが、偏見や差別を生んでしまいそうな学問だなとちょっと怖くもある。学問とは対極的な、宗教的な態度を漂わせる学者を最近はよく見かけるが、どこかで落とし穴にハマりこんでしまったのだろう。
文章に論文的な固さがあってすんなりと頭に入ってこず、やや読みづらさがあった。
著者
北山忍
登場する作品

