★★★★☆
内容
コロナ禍にミニシアターを応援するため、ゆかりの深い監督たちによって行われたトークイベントを書籍化したもの。
感想
クセのある映画製作者たちによる対談だ。好き嫌いがはっきりしていて、ダメなものはダメだと本音で語っており、どのテーマの話も面白い。
そんな中で、メンバーの井上淳一が脚本、白石和彌が監督した「止められるか、俺たちを」について、登場人物の一人として描かれた荒井晴彦が感想を述べる場面は興味深かった。色々と語りながらも、どこか不満げで納得いかない雰囲気を漂わせている。
漫画などの実写化作品でも、原作者が不満を表明することはよくあるくらいなので、自分たちの実際の過去の話を映像化などされたら「こんなのじゃなかったけどな」と思ってしまうのもわかるような気がする。他人が見た自分と自己像にズレがあることもよくある話なので、誰もが納得できる映像なんて作れないのかもしれない。
また日活ロマンポルノの話も面白かった。映画会社がエロを前面に押し出していた時代があったことを不思議に思う気持ちが自分の中にはあったのだが、そういう需要があったと共に、美男美女ではなく、どこにでもいそうな登場人物たちに若者たちがシンパシーを感じていた、という話を聞いて、腑に落ちるものがあった。どこかの夢物語ではなく、これは自分たちの映画だ、と思えたのだろう。
本のタイトルとは違い、あまり映画評論家に対する言及はないが、そもそも今、映画評論家と名乗る人はそういないという現実にはいろいろと考えさせられる。今はコンテンツ過多なので、うまく理解できなかった映画について誰もじっくりと考えることなどせず、わかりやすいコンテンツを求めて次にさっさと行ってしまうのだろう。だからプロによる詳しい評論は必要とされない。
それに「実はあの映画へのオマージュが込められていて…」などと詳しい文化的、歴史的背景を説明したりすると、マウントを取られたと怒る人もいる。ここでへそを曲げるのと、そうなんだと興味を持ってその映画も見るのとでは、その後の映画に対する理解力は格段に変わってくるはずだ。
森達也が、中学生くらいで「いつまでも怪獣映画なんか見てちゃ駄目だと思った」と語っていたが、今だと何歳になっても怪獣映画やアニメを見ていても大丈夫な環境になった。そういう時代の変化も大きいのかもしれない。なんならそれが世界的な傾向になりつつある。
日本「アニメ」が世界を食らう 韓流・ハリウッド“頭打ち”で 超一流VCも“太鼓判” | TBS NEWS DIG
時代の流れでそれも悪い事ではないが、そればかりでなく、この語り手たちが作るような映画も普通に見られるような、いろんな映画のある世界であって欲しいものだ。背伸びして見るような大人な映画や、価値観を変えるような異物感のある映画も必要だろう。結局、世界を豊かにするのは多様性だ。
著者
荒井晴彦/森達也/白石和彌/井上淳一
