★★★★☆
内容
世界的に注目される哲学者が、国や個人、経済活動など様々なレベルのつながりが、パンデミック後にどのように変化するのかを語る。
感想
コロナ禍に行われた哲学者マルクス・ガブリエルへのインタビューをまとめたものだ。今となってはコロナ禍は遠い昔のようで、著者が語る当時の状況に遠い目をしてしまう
しかし私が知る限り最悪の知識人はウィルス学者です。社会的思想家としてはまったくダメなのです。研究対象がウィルスという、知能のないものだからです。動物や植物を研究している生物学者の方が、知識人としてまだましかもしれません。
p60
彼は、コロナ禍に起きた事象について様々な言及をしているが、当時世間の注目を一身に浴びていたウィルス学者を手厳しく批判する様子には笑ってしまった。基本的には非常に穏やかで誰も傷つけないように配慮した語り口なので、突如の毒舌は余計に印象に残る。
だがこれは本当にそうで、ウィルス学者に限らず、なぜか専門家が社会に色々と呼び掛けていた当時の状況は非常に疑問だった。彼らは専門知識はあるが、社会全体の活動を見ているわけではない。本来ならそれは政治家の役割で、彼らは求められたら専門的な助言をするにとどめるべきだった。日本では政治家の怠慢でやらされていた感はあるが。
コロナ禍はヌルっと終わってしまい、結局元に戻っただけで世の中は何も変わらなかったと思っていたが、人々が陰謀論にハマりやすくなったという指摘には、確かにそうかもと頷いてしまった。皆がステイホームで家にこもり、暇なので妄想ばかりしていたとも言える。
コロナ禍は皆にとって、世の中は何でこんなことになっているのだろう?と考える期間だったのかもしれない。それを色々調べ、深く考察したなら有意義な時間となったかもしれないが、多くは頭を使うことも手を動かすことも怠けてぼんやりとネットを眺め、偶然出会ったフィーリングの合う主張に飛びつくようになったということか。
著者は、これからは倫理を重視した資本主義「倫理資本主義」の時代になると唱えている。倫理的に行動したらあまり儲からなさそうだが、実際には儲かるし、いち早くその体制を築いた国が次の覇権を握るだろうとも言っている。理念自体は素敵なので、実現するなら素晴らしいことだ。
だがその一方で、倫理資本主義の社会を望まない人は倫理的でないだけだ、と切って捨てているだけなのは気になる。社会はそういう人たちとも一緒に生きていかないといけないわけで、どう対処するのかが需要になってくる。もしも高い倫理観を持つように強制するのなら、共産主義と同じように独裁と粛清が当たり前の社会になってしまいそうだ。理念は良くても個人に多くを求める社会は息苦しくなる。
ただ、その点については本書で詳しく触れてないだけなのかもしれない。興味深くはあるので、色々出ている著者の他の本ももっと読んでみたくなった。
著者
マルクス・ガブリエル
インタビュー・編 大野和基
訳 髙田亜樹
登場する作品
世界史の針が巻き戻るとき 「新しい実在論」は世界をどう見ているか(「世界の知性」シリーズ) (PHP新書)
「暗黒の時代における倫理的進歩(Moral Progress in Dark Times: Universal Values for the 21st Century (English Edition))」
マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するII: 自由と闘争のパラドックスを越えて (NHK出版新書 620)
The Meaning of Thought (English Edition)

