★★★★☆
内容
本をじっくりと読んで堪能する読書法の紹介。
感想
速読がすごいとは思ってはいないのだが、自分もどちらかというと本を読み飛ばしてしまいがち。なのでスローリーディングを提唱する本書はなかなか興味深かった。中でも心に残ったのは「「辞書癖」をつける」という項目。読めない漢字でも、雰囲気で何となく意味は類推できるので、辞書を引いて調べずに、そのまま読み進めてしまうという事はよくある。でも、ここで調べるか調べないかは、蓄積される知識量に大きな差が出てくるはずだ。それに、いつか実生活で無知をさらけ出して恥をかくことになってしまうかもしれない。
政治家も「みぞうゆう(未曾有)」「よせき(寄席)」等の読み間違いをしたとよく揶揄されているが、試験をパスするための勉強しかしてこなかった人は案外、たくさん本は読むが、速読しかしてこなかったのかもなと思った。高度な試験で漢字の読み方を聞かれることなどまずないので、疎かにしていたのだろう。ただ世襲議員の場合は、勉強もせず、まわりも気を使って間違いを指摘できないから、という別の問題があるような気はするが。そういう自分も「奇しくも」が「くしくも」という読みだという事を最近知った。「きしくも」と「くしくも」という二つの別の言葉があるのかと思っていた。どこかで恥をかく前に気付いてよかったと密かに胸をなでおろしている。今後は読めない漢字や知らない言葉等はなるべく調べるようにしていきたい。
後半は、実際の小説などの文章を使って、スローリーディングの実践方法が紹介されていく。いつもの自分流の読み方以外に、こういう視点で読むことも出来るのかと新鮮な気分になる。様々な着眼点の持ち方を、感覚やセンスではなく、知識として体系的に知っておくと確かに読書の技術が上がりそうだ。これまで読んで来た本も、これらの方法を用いて再読してみたら、さらに深く味わうことが出来て、感想も変わってくるかもしれない。
取り上げられる小説の中には著者自身の作品「葬送」もあり、本人から読み取って欲しいところなどの解説があって、とても興味深かった。こういう作家本人による解説というのは面白いのでどんどんとやって欲しいが、もしノリノリで饒舌に語っているのを見てしまうと、逆に「そんな解説が必要な本など書くなよ」とか思ってしまいそうなので難しいところ。この本のように、頼まれたからやるけども…、みたいな渋々のポーズがあると素直に読めるが、毎回それをやるのは面倒くさそうではある。
本書でも言及されているように、突き詰めてしまえば正しい読書法なんて無いのだが、どうせ読むならその本を十分堪能できたと思えるような読み方をしたいな、と思わせてくれる本。
著者
平野啓一郎
登場する作品
「橋」 「カフカ短篇集 (岩波文庫)」所収
翁草 (1980年) (教育社新書―原本現代訳〈55,56〉)
「私の文学」 「一草一花 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)」所収
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