★★★★☆
内容
リッチな人々とはどのような人たちなのか、その実態を明らかにし、また問題点を指摘する。漫画(バンド・デシネ)で紹介するブルデュー社会学。
感想
一般的に思い浮かべる金持ちとはどのような人たちなのか、という事が詳細に説明される。単純に大金を持っている人だろうと思ってしまうが、そうではない。例えば自分がある日突然大金を手にしたとしても、皆が金持ちだと思うような暮らしをいきなり始める事は無理だろう。
金持ちが庶民と違うのは大金を持っている事だけではなく、金持ちとしての振る舞いを身につけている事だ。お金の使い方に関する知識や文化に対する審美眼を持っていて、各界の有力者たちと幅広い交友関係があり、世間に認められるような地位を手にしている。
中でも一番重要なのはコネだろう。それ以外のものは、有力者たちが集うパーティで気後れすることなく過ごすために必要なものなのかもしれない。こうやって知り合った金持ち同士が互いに少しずつ便宜を図り、連帯して助け合っている。コネのおかげで金持ちたちは庶民に混じって競争することなく、VIP待遇で世の中を渡っていける。彼らがどんな状況でも、コネの機会である「会食」を止めようとしないのはそういう事かと、合点がいった。
しかし現代社会は、実際には負の側面を抱える「個人主義・競争社会」が良しとされる。「連帯」が重要な労働者階級でさえ、それを失って、負の個人主義に巻き込まれてしまった。
p119
最近は富の一極集中が進み、格差が広がっているといわれるが、本書はその原因として、行き過ぎた「個人主義・競争社会」があると指摘している。確かに、相手よりも少しでも優位に立とうと庶民同士が競っているその裏で、金持ち同士は仲良く「連帯」して着実に富を蓄えている、というのはなかなかショッキングな真実だ。
きっと「あんな奴らに税金を使うな!」などと庶民が互いに叩き合っているのを見て、金持ちはきっとほくそ笑んでいるのだろう。わざわざ自分たちに回って来るお金を増やしてくれていると。冷笑・忖度大歓迎、どんどん庶民同士で分裂して叩き合えと。
そう考えると、政府が庶民に10万円を配るのはめちゃくちゃ渋るのに、特定の業界には審査ガバガバで気前よく大金をつぎ込むのも腑に落ちる。この本を読んでいると、経済が落ち込む現在の状況下で進行する、政府の不可解な動きの理由が何となく理解できてくるのだが、それと同時に腹も立ってくる。
本書ではおもにフランスの状況を紹介している。フランスが羨ましいと思えるのは、あちらのリッチな人々はちゃんと「ノブレス・オブリージュ」を意識した教育も受けているという事だ。日本だと、どこにでもいそうな普通のおじさんですが親が金と権力を持ってたから受け継いでいます、というのがほとんどのように思えるが、本当にやめて欲しい。ただただ迷惑をかけられるだけ。最近は普通どころか、教育の重要性すら理解してない普通以下みたいな人も多い。
本書では最後に、広がり続ける格差の問題をどのように解消するかについての方法も紹介している。庶民が連帯・団結して対抗する事、必要以上に権限を与えない事など色々とあるが、庶民がそれらに気付いた上で一致団結し、更に共に行動する、というのはめちゃくちゃハードルが高そうだ。色々と考えさせられてしまう本だった。
著者
マリオン・モンテーニュ
原案 ミシェル・パンソン/モニク・パンソン=シャルロ