★★★★☆
あらすじ
妻をバスの事故で失うも全く泣けない作家の男は、同じく事故死した妻の友人の家族と交流を持つようになる。124分。
感想
タレント的活動もする作家の男が主人公だ。妻との関係は冷え切っており、彼女が死んだときには自宅で浮気をしていた。いつも自分のことばかりで、葬儀中もマスコミに自分がどう見えるかばかりを気にしていた主人公は、まったく妻の死に涙を見せる様子がない。
しかし事故後の警察からの聞き取りで、出かけるときに妻がどんな格好をしていたのか全く思い出せず、誰と一緒だったのかすら知らなかったのは気まずい。そして妻の死を誰に知らせるべきかも全く分からないなんて、彼がいかに無関心だったかがよく分かる。だが長年一緒にいるとそうなりがちで、誰にとっても他人事ではないだろう。冷や汗が出た。
そんな男が、妻と一緒に事故死した友人の家族と付き合うことで変わっていく。なぜ自己中な男がそんな人たちと関わろうとしたのか不思議だが、彼なりに泣けないことを気にしていたのだろう。それで悲しみをストレートに表現していた妻の友人の旦那に関心を持った。そして家を空けがちなトラックドライバーである彼の子供たちの面倒を見るようになる。
主人公は子供も嫌いそうなのに、男の子供たちとうまくやっているのも意外だった。だがいざやってみたら存外向いていたということは良くあることだ。熱心に子供たちの面倒を見る主人公の姿には微笑ましいものがあった。しかし一家と共に海に出掛けたシーンなどは、外から見るとゲイのカップルの一家のようにみえるかもしれないなとちょっと面白かった。もちろん他人からどう見えるかなんて気にする必要は全くないのだが。
一家と付き合い、それぞれの葛藤を目の当たりにした主人公の心は少しずつ変化していく。この一家の息子が、父親に不満をぶつけるシーンには胸が締めつけられた。そしてその息子に対して主人公がかけた言葉には心を打たれる。
一家との交流は、劇中でも指摘されていたが主人公の現実逃避のようにも寄生のようにも見えなくはない。だがそれはそれでいいような気もした。傷を抱えた者同士の助け合いだ。彼は一家と付き合うことで自分にあり得たかもしれない世界を見て、同時にそうはならなかった理由も突き付けられた。一家の息子にかけた言葉には、そこから得た悔悟の念が込められている。
それから、こうした偶然の出来事が人生に影響を与えていく不思議も感じる。妻たちの事故がなければ彼らは出会わなかったし、主人公の心境の変化もなかった。またもし主人公夫妻に子供が出来ていたら、別の人生になっていたはずだ。そして意外と子煩悩な自分に驚いたりしていたのだろう。予期せぬ出来事が起きるのが人生だ。
妻を失った悲しみを敢えて真正面からではなく、別の家族との交流を通して描いていく。感動や涙に訴える押しつけがましさがなく、じんわりと心に染みてくる物語だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 西川美和
原作 永い言い訳 (文春文庫)
出演 本木雅弘/竹原ピストル/堀内敬子/深津絵里/池松壮亮/黒木華/山田真歩/康すおん/戸次重幸/ジジ・ぶぅ/(声)木村多江
音楽 中西俊博/加藤みちあき
編集 宮島竜治