「歴史は実験できるのか　自然実験が解き明かす人類史」　2018

★★☆☆☆

内容

　歴史関連の学問で用いられる自然実験、比較研究法と呼ばれる方法を実例を交えて紹介する。

感想

　実験室で行われるような何度も再現可能な実験は、神様でもない限り歴史の分野では行うことが出来ない。だがこの分野では、ある時代のあるシステムと一つを除いてほぼ似通ったまた別のシステムを比較して、その差異がどのような影響を与えたのかを調べるという自然実験という手法が、効果を発揮しているという。

　この本では銀行制度やイギリスのインド統治、フランス革命などを題材にした自然実験を取り上げつつ、具体的な方法を紹介している。面白かったのは、カリブ海の小さな島、イスパニョーラ島を分断して存在するハイチとドミニカ共和国、２つの国の違いについての話と、イースター島の話。

　イスパニョーラ島は、一つの島であることから島内の２つの国の環境的な差異は殆どないはずなのに、片方は栄え、片方は貧しくと大きな差異が出来ている。両国は植民地時代の宗主国が違ったことや、その宗主国との関係、さらには同じように見えて東と西では自然環境も実は違う、などといったことが影響を与えて、このような差異が生まれていったと考察されている。

　そのような考察の中で、両国には独裁政権の時代があったが、その独裁者の片方は金にがめつく、国民に金を稼ぐよう強いてその上前を跳ねていたという。しかし、自分のためとはいえそのようにお金に関心が高かったため、国の経済は大きく発展したという。しかし、もう片方の独裁者は金にガメつくはなかったため、ただ国が荒廃していくだけだったそうだ。金に汚いというのはイメージが悪いが、経済の発展を考えると、どうせ独裁者なら金にガメつい方がいい、というのは面白い。

　もう一つはイースター島の話。これは結構有名な話で、島民は豊かすぎて石像づくりに興じている間に島の資源を枯渇させ滅んだ間抜けな人々、というイメージがある。しかし、ポリネシアの島々を様々な視点で比較してみた所、イースター島は最も壊れやすい島という結果が出たそうだ。つまり、彼らは特別間抜けだったわけではなく、運悪く最悪の環境の島に住み着いていただけ、ということになる。よく考えれば他の島だって宗教儀式のための石造りの施設を作ったりしているわけで、環境が悪ければイースター島の島民と同じ運命を辿ることになったのかもしれない。そう考えると、イースター島に対するイメージは変わった。

　と、面白く感じる部分はあったが、正直言って内容は学術的すぎて読むのが苦痛に感じる部分のほうが多かった。そもそもプロローグで述べられているが、読者対象は社会科学の学者や大学生とのこと。なので内容も論文調で堅苦しく細かくて、銀行制度の話なんかは難解すぎて本当に辛かった。気軽に読むには不向き。

　面白かった「銃・病原菌・鉄」のジャレド・ダイアモンドが編者を務めているので手に取ったのだが、失敗だった。ただ、今回面白いと挙げた話はすべてジャレド・ダイアモンドが担当した章。この章だけは難解ではなく読みやすく、面白かった。流石だ。